第82空中強襲旅団と、共に戦っている部隊に属するマルダー、ストライカー、BMPの各歩兵戦闘車はここ数日で、防衛線の一番外側にある塹壕の周辺を駆け回り、「竜の歯」と呼ばれる戦車の進行を妨げるコンクリート製の障害物を縫うように通り抜け、べルボベに向かって進んだ。べルボベではロシア軍の3個連隊と付属の特殊作戦部隊、そして予備兵が必死の防衛戦を展開している。
「スロビキン・ライン」と呼ばれる第1防衛線の突破は、ウクライナ側にとって困難なものだった。ロシア航空宇宙軍の総司令官を解任された設計者のセルゲイ・スロビキンにちなんで名づけられたスロビキン・ラインは、地雷と障害物、塹壕で構成される軍事要塞だ。これを突破したウクライナ軍の部隊を待ち受けるのは、さらなに困難なものかもしれない。
9月20日までにスロビキン・ラインに入ったウクライナ軍の車両部隊と歩兵は、同ラインの外側の塹壕からべルボベ村の端まで約1.6kmにわたって広がる平野に出た。そこにあるのは、大砲でところどころ木が失われた樹林帯や、最近死んだ者を含むロシア兵が多数いる塹壕以外には何もない。
つまり、身を隠す場所がほぼないのだ。ウクライナ軍の部隊がべルボベに入り、最西端の建物で安全を確保するには、ロシア軍のドローンに監視される中を少なくとも1.6km東に進まなければならない。その間、ロシア側はドローンに搭載された小型爆弾や、ドローンからの照準アシストを受けた大砲でウクライナ部隊を容易に攻撃できる。
これが楽勝だと強がる者はいない。あるウクライナ軍将校は米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに「われわれは突き進んでいる」と説明。「われわれは相手を撃破している。しかし、その代償は……」と言葉を詰まらせた。
ウクライナ軍の損失は大きく、今後さらに拡大することは間違いない。歩兵と乗員合わせて最大11人が乗れるウクライナ軍のストライカーは、大砲に攻撃された。BMPは歩兵分隊がその上に乗っている間にドローンで爆破され、生存者は近くの樹林帯に避難した。奪ったロシア軍の塹壕で休んでいたウクライナ軍の疲弊した歩兵隊は、手榴弾ほどの大きさの爆発物を積んだロシア軍の一人称視点(FPV)レーシングドローンの攻撃を受けた。