さらに、かたつむり図では「地球にかえす」は地域との連携(市内)、「未来へのこす」は行政との連携(県内)、「社会でまわす」は企業との連携(県外)という形で、循環のスケールとそれに関わるステークホルダーも明記されているのが特徴だ。そして、田中氏はこのように多様な循環が同時に存在していることが重要だと語る。
田中氏「原則として、いろいろな循環が同時多発的にある状態が好ましいと思っています。たった一つの究極の循環系などはありません。どの循環にも、時間がかかる、経済的に成り立たない、などの弱点があります。何か一つを追いかけるというよりも、まずはいくつもの循環を作ってみて、それをボトムアップで繋げていくシステミックデザインのイメージですね」
田中氏 Photo by Masato Sezawa
子どもたちにも親しみやすいかたつむり図の裏側には、田中氏の考える理想的なサーキュラーデザインの思想が組み込まれているのだ。
これらの拠点名やビジョン策定には、一年半におよぶワークショップや議論を通じて総勢150人ほどが関わったという。考え抜かれた言葉とダイアグラムは、ビジョン共創プロセスの質の高さを物語っている。
循環の選択肢を増やす「しげんポスト」
地域における循環の多様性を高める上で大事な重要な役割を担うのが、現在鎌倉市役所、プロジェクト拠点となる「リサイクリエーション慶應鎌倉ラボ」、そしてプロジェクト参画企業である「面白法人カヤック」オフィスの3箇所に設置されている「しげんポスト」だ。しげんポスト
しげんポストでは、シャンプーや食器用洗剤など生活清潔用品のつめかえパックを回収しており、回収されたプラスチックは、再びパッケージにリサイクルされたり、3Dプリンターを活用して制作されるベンチや遊具の素材として活用される。
田中氏「鎌倉市では、たとえばプラスチックでも、ペットボトル、容器包装プラスチック、製品プラスチックがそれぞれ分けて回収されています。そうした自治体回収の上に、さらに特定の製品やジャンルだけにもう一段階絞って集めることで、高品質な循環を生み出すことができる。その入り口となるのが『しげんポスト』です。現在は3カ所ですが、今後町内会などでも増やしていく予定です」
「自治体の資源回収は曜日と時間が決まっているのですが、鎌倉のようにいろいろなライフスタイルが入り混じる中都市では、生活リズムが回収のタイミングと合わない人もいます。しげんポストは好きな時間に出しにこれる常設回収スポットとしての役割があり、例えば働いている男性が日曜日に子どもと一緒に出しに来ることもできます」
しげんポストの根底にも、循環に参加できる選択肢が増えれば、それが消費に変わる新たな自己表現の手段になるという考え方が貫かれている