田中氏は、こうした鎌倉ならではの歴史や市民力の高さといった地域特性との整合性が、循環型社会への移行に向けたプロジェクトを推進する上では重要だと語る。
田中氏「循環型のまちづくりの取り組みにはそれぞれ地域性があると思うのですが、鎌倉が『循環者』という市民の力に着目するという成り立ちにしたのは、このまちの最も大切な資源は『人』と『まちへの強い愛着』だと思ったからです」
「また、鎌倉の取り組みに一体感があるとすれば、その理由は目的が地域の課題解決だからだと思います。まずは鎌倉のごみ焼却問題を何とかしようという明確な目的があるからこそ、企業や大学も共創しやすいという側面がありますね」
どのような資源をどのように循環させることが最適なのか、その答えは当然ながら地域によって変わってくる。循環型のまちづくりを進める上では、未来に向けたビジョンと現在のまちの課題、そして過去のまちの歴史とのベクトルが真っ直ぐと地続きになっていることが重要なのだ。鎌倉はそのベクトルの角度がピッタリと揃っているからこそ、プロジェクトに推進力が生まれているのだろう。
2032年までのビジョン実現に向けて着実と歩みを進めている鎌倉だが、これからどのような未来を描いているのだろうか。最後に田中氏に聞いてみた。
田中氏「最終的には鎌倉で実証したモデルを、他の人口20万人規模の『中都市』に横展開していきたいと思っています。環境省の掲げる地域循環共生圏では、『都市』と『農山漁村』を一旦わけて、それぞれの良さを連結させるモデルが示されていますが、私はそのどちらでもなく、都市と農山漁村の要素が混然一体に混ざり合った『中都市』から、新しい循環型まちづくりのモデルがつくれると考えています。
あと個人的な最終的な夢として、『循環姉妹都市』のような事例までいけたらいいなとも思っています」
編集後記
取材を通じて強く感じたのは、田中氏が紡ぐ言葉や表現の一つ一つに、そこに辿り着くまでの思考と実践の積み重ねを反映した深みがあるという点だ。「リスペクトでつながる『共生アップサイクル社会』」という拠点名や「循環者」という造語、分かりやすさとエッセンスを共存させた「カタツムリ」循環図、循環の選択肢を増やすことで循環を消費に変わる「自己表現」の手段にするという思想にいたるまで、鎌倉の取り組みには循環の本質を追求し続ける中で育まれた哲学が一貫して貫かれている。
だからこそ、市内外の企業から多分野にわたる研究者まで多様なステークホルダーが参画しながらも、全体としてまとまった生態系が形成されているのだろう。
田中氏が提示する「循環者」というあり方は、鎌倉に限らずとも私たち一人一人がそれぞれの地域で実践できるものだ。鎌倉の事例に学びつつ、ぜひあなたもまずは自分の暮らす地域から「循環者」として変革に向けた一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。
【参照サイト】
・リスペクトでつながる『共生アップサイクル社会』共創拠点
・循環者教育特設サイト「循環者になろう」
・しげんポスト
・まちのコイン
※この記事は、2023年7月にリリースされたCircular Economy Hubからの転載です。
(上記の記事はハーチの「IDEAS FOR GOOD」に掲載された記事を転載したものです)
※2023年10月2日 画像の一部を削除しました。