社会でまわす、地球にかえす、未来へのこす
拠点ビジョンに含まれる「社会でまわす、地球にかえす、未来へのこす」という表現も、田中氏が考える最適な地域のサーキュラーデザインを誰もが理解しやすい平易な言葉に翻訳したものだ。下記のカタツムリ図は、この3つの循環を表現している。3つの異なる循環を表現したカタツムリ図
カタツムリ図では、様々な資源の循環の選択肢を「地球にかえす(生物型循環)」「未来へのこす(ストック型循環)」「社会でまわす(フロー型循環)」の3つに分類している。
「生物型循環」とは、植木剪定材を堆肥化して鎌倉野菜を育て、さらに食べた野菜の残りをコンポスト化するなど、土を媒介とした生物資源の循環を意味している。対して「フロー型循環」は、プラスチックの水平リサイクルのように人工資源を繰り返し循環させていく方法だ。
そして「ストック型循環」とは、例えば回収したプラスチックなどからベンチを作って公共空間に設置し、燃やしてCO2を排出するのではなく物体として炭素を固定していくといったイメージだ。
回収された資源を活用し、3Dプリンターで製作されたベンチ。Photo by Masato Sezawa
田中氏によると、この図はもともと世界的なサーキュラーエコノミー推進機関として知られる英国エレン・マッカーサー財団が提示する「バタフライ・ダイアグラム」からインスピレーションを受けて作成したものだという。
バタフライ・ダイアグラム(出典:Circular Economy Hub)
田中氏「バタフライ・ダイアグラムはとてもスタンダードなモデルなのですが、以前から二つ思っていたことがありました。一つ目が、循環の『速度』が表現できていないという点です。生物資源の循環(分解や再生)の速度は(人工物と比較して)とても遅いのですが、この自然の速度と人工物の速度のずれが、バタフライ・ダイアグラムでは表現しきれていないのです。
そのため、カタツムリ図では、生物型循環(最も内側のオレンジの円)とフロー型循環(最も外側の緑の円)で、上のほうが早くて下がゆっくりという速度感覚を表現しました」
「また、もう一つがストック型の循環です。バタフライ・ダイアグラムではなるべく内側の円のほうが良いとは書いてあるのですが、ストックするという概念は明示されていません。これらのエッセンスを表現したくて、生物・ストック・フローの3つに整理しました」
森林などの生物資源は「再生可能資源」と言われるが、実際には再生速度を上回る速度で消費をすれば、その量は減少し、最終的には枯渇してしまう。木が燃やされ、CO2が排出されていく速度と、木がCO2を吸収しながら成長していく速度の違いを想像すれば、生物資源の循環において「速度」という概念がいかに重要であるかはすぐに分かるだろう。
また、この循環の速度を究極的に伸ばすという視点に立つと、資源を高速に回すのではなく後から取り出せるように「ストック」しておくという新たな選択肢があることにも気付く。