教育

2023.09.28 08:45

慶應大学の「鎌倉」拠点は、何を目指すのか?

慶應義塾大学環境情報学部(SFC)教授・田中浩也

アップサイクルの先にある「リープサイクル」とは?

田中氏が理想とする循環の実現に向けてもう一つ欠かせないのが、同氏が提唱するアップサイクルを超えた「リープサイクル(跳躍循環)」という概念だ。リープサイクルとは、一言で言えば、一度アップサイクルしたらそれ以降の循環ができないやり方ではなく、一回目、二回目、三回目とサイクルが繰り返されるたびに高付加価値となっていくような循環のあり方を指す。
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田中氏「オリンピックのプロジェクト(田中氏が手がけた再生プラスチックを活用した東京2020大会表彰台制作プロジェクト)で分かったことは、リサイクルで作ったものを捨てるわけにはいかないというか、受け取った人もリサイクルされたものは捨てにくく、普通にゴミを捨てるよりもリサイクルされたものを捨てるほうが罪悪感が大きいことでした」

「そのため、私たちはアップサイクルの際のルールを二つ決めています。一つはモノマテリアル(単一素材)で作る。材料を混ぜず、接着剤なども使わないということ、そしてもう一つはマテリアルの成分表示をつけるという点です。QRコードを読み込むと、『捨てずに循環させるには?』というガイドが読めるようになっており、いらなくなったらこのラボに持ってきてくださいといった指示が書いてあります。

このラボで作ったものは基本的にラボに戻ってくることになっていて、成分データを読み込んでペレットに戻せば再び循環させることができるようになっています。アップサイクルの次まで見込んだアップサイクルという意味で『リープサイクル』と呼んでいます。」
製作されたプロダクトには、QRコードで読み込み可能なプロダクト・パスポートが実装されている。Photo by Masato Sezawa
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サーキュラーエコノミーの概念の普及に伴い、市場では製品使用後の再循環までを想定せずに混合素材で作られるアップサイクル製品なども増えてきているが、リープサイクルはその壁を突破する新たなコンセプトなのだ。まだテスト段階ではあるものの、アップサイクルを真に優れた循環の選択肢にする上で非常に重要な考え方だと言える。

鎌倉で「循環」をデザインする意味

鎌倉市が先進的に環境政策やリサイクルを進めている背景には、もちろん自治体特有の事情もある。鎌倉市では2025年3月末を持って市内唯一の焼却施設の運営を停止予定となっており、徹底した資源化による燃やすごみの削減は必至命題でもあるのだ。

また、鎌倉は地域の自然や景観を開発から守るためのナショナル・トラスト運動の日本における発祥の地(1964年)でもあり、豊かな自然を大切にしようとする市民意識の高さも環境政策を後押ししてきた。

より時代を遡れば、鎌倉時代から続く古都の街並みを大切に守り抜いてきた「伝統」を大切にする精神も、未来へのこす「ストック型循環」といった考え方との親和性も高いだろう。
豊かな自然に囲まれた古都・鎌倉
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文=IDEAS FOR GOOD Editorial Team

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