教育

2023.09.28

慶應大学の「鎌倉」拠点は、何を目指すのか?

慶應義塾大学環境情報学部(SFC)教授・田中浩也

神奈川県南部に位置する人口約17万人の都市・鎌倉市。三方が山に囲まれ、一方が海に面するという豊かな自然と古都の情緒を強みに多くの人に愛されてきた鎌倉は、環境政策においても先進的な自治体として知られている。

鎌倉市のリサイクル率(2021年度)は52.6%と全国平均の19.9%を大きく上回っており、人口10万人以上の市の中で4年連続全国1位に輝いている。「ゼロウェイストかまくら」を掲げる同市のごみ分別は21種類(2022年3月現在)で、市民や事業者の協力のもと、過去30年で燃やすごみを約6割削減することに成功した。

そんな鎌倉で、ごみの削減や再資源化を超えた新たな循環型社会モデルの実現を目指す取り組みが始まっている。それが、慶應義塾大学環境情報学部(SFC)教授の田中浩也氏が率いる産官学民連携プロジェクト「リスペクトでつながる『共生アップサイクル社会』共創拠点」だ。

同拠点は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」地域共創分野・本格型プロジェクトに採択されており、「循環者になるまち~社会でまわす、地球にかえす、未来へのこす~」というビジョンの実現に向け、3DプリンティングやAI、IoTセンサーなどのテクノロジーも活用しながらプラスチックなどの資源循環による地域の課題解決に取り組んでいる。

今回IDEAS FOR GOOD編集部では、全国に先駆けて先進的なサーキュラーエコノミーの実装が始まっている鎌倉市の現状と未来について、同プロジェクトを率いる田中氏にお話を伺った。
慶應義塾大学環境情報学部(SFC)教授・田中浩也氏

人が輝く循環型社会は「リスペクト」からはじまる

同プロジェクトの思想や理念を象徴しているのが、「リスペクトでつながる『共生アップサイクル社会』共創拠点」という拠点名だ。通常、サーキュラーエコノミーは3R(Reduce・Reuse・Recycle)や10R(Refuse・Rethink・Reduce・Reuse・Repair・Refurbish・Remanufacture・Repurpose・Recycle・Recovery)といった様々な「R」とともに説明されることが多いが、同拠点名の始まりの言葉は「Respect(リスペクト)」。

この拠点名に込められた思いについて、田中氏はこう語る。

田中氏「循環型のまちづくりに取り組む地域が増えるなか、ただ循環型のまちを目指すというだけでは10年間にわたる活動の核にはできず、具体的にどのような循環型のまちづくりをするのかをもう一段深掘りする必要がありました。その中で生まれたのが『リスペクトでつながる共生アップサイクル社会』という言葉です。一言で言えば、人間中心でそこに参加する人々が輝く循環型社会を作りたいのです」

「『リスペクトでつながる』というのは、ごみ清掃員をされているお笑い芸人のマシンガンズ・滝沢秀一さんと対談した際に出てきた言葉です。3Rに続くRとして『Respect(リスペクト)』のお話があり、まちや市役所の方もみんなが共感し、スローガンに決まりました」
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文=IDEAS FOR GOOD Editorial Team

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