欧州

2023.09.10 09:00

ウクライナ、供与された西側製戦闘車両数千台の修理が問題に

安井克至

gnacio Marin/Anadolu Agency via Getty Images

ロシアがウクライナに侵攻してからの1年半あまりで、ウクライナを支援する国々は3000両を超える近代的な戦車や戦闘車両、装甲車を供与することを約束した。

そして今、ウクライナの同盟国はこれらの車両の修理に注意を向ける必要がある。ロシアとウクライナの戦争が3年目に突入しようとする中、迅速な修理が大きな違いを生むかもしれない。

何千両もの西側製の軍用車両は前線で戦うウクライナ軍旅団のおおよそ半数に配備された。配備にあたっては北大西洋条約機構(NATO)スタイルの訓練が実施され、ウクライナ軍の参謀本部や地域司令部にまったく新しい考え方をもたらした。

旧ソ連が設計した車両を厳格に運用し、旧ソ連の戦い方に従っていたころ、ウクライナ軍の指揮官たちは、車両を失うことは乗員に加えて車両に乗っている歩兵を失うことでもあると思い込んでいた。

だが西側製の車両は「人間のことを考えて設計されている」と、英国製のチャレンジャー2に乗り込んでいるウクライナ軍の乗員は語った。装甲は頑丈で、耐火構造になっており、そして壊滅的に爆発しないように設計された弾薬庫を備えたこれらの車両は、乗員もろとも破壊されるというよりは、乗員に大きな被害を与えずに機能停止する傾向にある。

予想されていた南部での反攻が3カ月目に入り、ウクライナ軍の旅団は多くの車両損失を被っているものの、そうした車両にいた人員をそれほど失っていないのはそのためだ。

乗員や中にいた歩兵は動けなくなった車両から脱出する。そして戦闘に参加し続けるために後方に逃げながら別の車両に乗り込む。その間、乗っていた車両は修理される。ウクライナ軍兵士のオレクサンドル・ソロニコは「乗っていた米国製のM2ブラッドレー歩兵戦闘車に砲弾2発が直撃したものの難を逃れた兵士と話をしたことがある」とSNSに書いている

車両は損傷しても兵士を守る能力があることは、ウクライナ軍の人的資本である訓練で得た技能と経験を維持する効果がある。だがこれは、戦闘で損傷した車両を修理し、最前線にいるウクライナ軍の旅団の戦力を維持するのをサポートする責任をウクライナの同盟国に課してもいる。

アナリストのジャック・ワトリングとニック・レイノルズは、英国王防衛安全保障研究所のウェブサイトで発表した最新の研究で、車両のつくりの変化による思考の転換を指摘している。「ウクライナ軍の兵士はある1つの根本的な理由で、西側供与の車両は旧ソ連製のものよりも圧倒的に優れていると述べている。それは乗員が生き延びられるということだ」と2人は書いた。
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翻訳=溝口慈子

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