欧州

2023.09.08 09:30

牽引車に艦載砲つけたロシア軍改造兵器、弾を撃つとぶるぶる震える

安井克至

MT-LB装甲牽引車。2022年、リトアニアのカウナスで(Karolis Kavolelis / Shutterstock.com)

ロシア海軍歩兵隊が今年春、70年物の古いMT-LB装甲牽引車の上に、これまた古い80年物の2M-3艦載砲をボルトで留めて、大急ぎでウクライナの前線に送り込んだ戦闘車両のことを覚えているだろうか。

この車両、MT-LB-2M-3がロシア軍による必死の応急策だったのは、文字どおりひと目で明らかだった。専用の防空システムや歩兵支援兵器を著しく失っていたロシア軍は、そこらへんに転がっている古い車両や兵器をなんでも利用するしかなかったのだ。

今回、MT-LB-2M-3が上下2連装の25ミリ機関砲で弾を打つ様子がお披露目された。案の定というべきか、フランケンシュタインの怪物じみたこの戦闘車両は、個々のパーツの合計から期待されるよりもはるかに性能の劣る代物だったようだ。

4日にソーシャルメディアで拡散された映像で、多くの軍事ウォッチャーがかねて疑っていたことが裏づけられてしまった。1950年代に開発された2M-3の砲塔は、MT-LBに取りつけられたとしてもまったく安定しないのではないかという疑いだ。機関砲は最初の数発の射撃を行ったあと、反動で振動している。これでは、続いて撃つ弾が目標から大きく外れるのはほぼ確実だ。

砲の安定化が20世紀の地上戦で重要な進歩だったと言われるのは、理由のないことではない。

砲兵隊員は新たな光学機器や射撃統制装置の力を借りて、どんどん遠くの目標を発見し、速射砲の照準を合わせられるようになった。

しかし、狙える距離が延びても、砲が2発以上の弾を正確に撃てなければほとんど意味がない。そこで、第二次大戦時代の兵器設計者は砲架にジャイロスコープと液圧装置を付加することで、取りつけた車両が跳ねたり揺れたりしても砲が安定するようにした。

砲が世代を重ねるにつれて、設計者はさらに電子式のスタビライザーやコンピュータ支援の照準器なども追加し、複数の平面で安定するようにしていった。今日、米陸軍のM-1戦車は、荒れた地形を時速50〜60キロで走破しながら、120ミリ滑空砲を1分あたり10発、3キロ強先の目標に向けて正確に射撃できる。

最新式のBM-7自動砲塔を載せたウクライナ軍のMT-LBが正確に射撃できるのも、あるいは旧式の2M-7砲塔を載せたロシア軍のMT-LBがそうできないのも、この安定性の有無から説明できる。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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