ヘルスケア

2023.09.10 15:30

老いた脳を若返らせるタンパク質「血小板第4因子」の研究でわかったこと

安井克至
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運動せずに運動の恩恵を?

オーストラリアのクイーンズランド大学の研究チームは、運動と認知機能に焦点を当てた。ネイチャー・コミュニケーションズに掲載された彼らの研究は、血小板第4因子が脳の健康に対して「運動」がもたらす強力な恩恵の中心であることを示している。

運動が認知的衰退の発症を遅らせ、緩和するのに役立つという証拠をもとに、研究者たちはこれらの恩恵の源を特定しようとした。2019年に発表された以前の研究で、論文著者であるタラ・ウォーカー博士と彼女の研究室は、運動が血小板を活性化し、血流に放出することを認識した。これらの血小板は、血小板第4因子を含む多くのタンパク質とホルモンを活性化した。

当時、彼らは血小板第4因子が、神経新生として知られる脳の新しいニューロンの産生を刺激する能力があるかどうかをテストした。血小板第4因子をマウスの脳に直接投与したところ、神経新生が促進され、記憶力が向上し、加齢にともなう認知機能の低下が抑制された。

最新の研究では、血小板第4因子を血流にのせて全身投与することで、同じ効果が得られるかどうかを確認した。予想どおり、今回も老齢マウスは神経新生が増加し、認知機能が全般的に回復した。

最近のプレスリリースで、ウォーカーは「健康状態や運動能力に問題があったり、高齢であったりする多くの人々にとって、運動は困難です。よって、薬理学的な介入は重要な研究分野なのです。神経新生を促進し、認知機能を高め、加齢にともなう認知機能低下に対抗するために、血小板を標的にすることができるようになりました」と語っている。

クロトー、生命の紡ぎ手

近年、クロトーが「長寿」タンパク質として脚光を浴びている。命の糸を紡ぐギリシャの運命の女神の名前を冠して名づけられたこのタンパク質は、寿命の延長と脳機能の向上と関連している。しかし、血流に注入されたとき、タンパク質自体は脳に到達しない。何らかの仲介者がいるのは明らかだ。
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翻訳=酒匂寛

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