山梨県がブランド魚「富士の介」が示す、養殖魚のレベルアップ

富士の介(ふじのすけ)

プロテインクライシスという言葉をご存知だろうか。世界的な人口爆発に加え、新興国の経済成長に伴う1人当たりタンパク質摂取量の増加により、2050年には約0.2億トンのタンパク質不足、特に動物性タンパク質は約0.6億トンもの不足が生じるとした推計のことである。

CO2の問題を含め、家畜の量はすでに限界に達しつつある。今年もサンマの不漁が叫ばれるように、海洋環境がますます厳しくなるなか、天然魚の増加を見込むのは厳しい。とすると、ジビエの積極的な利用や、魚介の養殖を進めるしか、道はないのかもしれない。実際、近年の世界的な漁獲量を見ると、約半分を養殖魚がしめている。

あまり知られていない「養殖」の問題

養殖というと、海に生け簀を作り、その中で魚を育てることをイメージするかもしれないが、実はこのような海洋養殖の環境への影響も見逃せないといわれている。

WWFジャパンのレポート(2019年)によれば、魚種によっては、その元になる稚魚が自然界の中から乱獲されていたり、養殖場から出される廃棄物が環境汚染をひき起こしたり、ときには海外から持ち込まれた魚が養殖場から逃げて外来種となり、野生種と交配してしまうこともあるらしい。

それに比べると、淡水養殖は、環境への害が少ないといえるのではないか。マス類の淡水養殖に限れば、かけ流し式がほとんどだが、最近では閉鎖循環式が行われている。かけ流しの場合、良質な水が豊富であることが前提だ。湧き水や川の水を利用して、常に酸素をたっぷり含んだ新鮮な水の中で魚を育てる。志の高い養魚場では餌の残渣や糞を取り除いた水を川へ流して環境に配慮している。
山梨県の水産技術センター忍野支所

山梨県の水産技術センター忍野支所


一方、「閉鎖循環式」はまったく水のない陸上に大きな水槽を作り、飼育水をろ過システムで浄化し、循環して繰り返し使いながら養殖を行う。環境負荷がさらに小さいため、新しく取り組む企業も増えてきている。莫大な投資が必要であることが難点だが、AIやIoTをはじめとした先端技術を駆使して魚を育てている。

現在一般的に養殖に使われる餌は、魚粉を固めたペレットというものだ。魚粉のもとは、ペルー産の鰯など、天然魚が主体なのだという。養殖で育てるのに天然魚が必要ということを多くの人は知らないと思うが、海洋、陸上を問わず、これからの地球の課題ともいえるのではないだろうか。天然魚の代わりに昆虫の幼虫を餌として与える研究も進んでいるそうだ。ここにも昆虫の出番が、と驚かされるが、これからの研究の成果に期待したい。
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文=小松宏子

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