山の中でひたすら美食を追求する 富山県「L’évo」の決意

「L’évo(レヴォ)」の谷口英司シェフ

ナンバーワン デスティネーション レストランとも評される「L’évo(レヴォ)」。新幹線富山駅から高山本線で30分の越中八尾駅が最寄りで、そこからさらに車で1時間。人口わずか200人の富山県南砺市利賀村にある、自然に溶け込むグレーの建物が目を引くレストランだ。

シェフの谷口英司氏は、美食ガイド「ゴ・エ・ミヨ2022」で2017年度に続き2度目の「今年のシェフ賞」を受賞した。レヴォの料理が、土地に根ざし、その恵みを生かしつつも革新的であり続ける、その姿勢が評価されたのであろう。店名のL’évoはevolutionからとった造語で、進化し続けるレストランであることを象徴している。

レストラン L’évo(レヴォ)

レヴォの前身は、富山市のリゾートホテル「リバーリトリート雅樂倶」のメインダイニング。富山の素材を縦横無尽に使い、富山の工芸家のテーブルセッティングの中で食べさせる料理として、たちまち評判になった。谷口氏は数年間シェフを務めたのち、3年間の構想期間を経て、新天地・利賀村に居を構えた。

実は、谷口氏は、富山には縁もゆかりもない大阪府の出身。20数年前に北野ホテルで料理人としてのキャリアを積み、リバーリトリート雅樂倶のメインダイニングシェフとして抜擢された。

「神戸では、食材は業者から納品されるものでしたが、富山では生産者との距離がとても近く、野菜にしても肉や魚にしても、まさに命をいただくという体験が鮮烈で、富山に惚れ込んでしまいました」と谷口氏は言う。



その頃から、素晴らしい食材を提供してくれる生産者をはじめ、器やダイニングテーブル、ランチョンマットにいたるまでの富山の工芸家たちへの愛はゆるぐことなく、独立するにあたっても、富山県内しか考えられなかったという。そして、より自然の濃い、山の中へと移ったわけだが、スタッフ12人全員が利賀村に移住したというから、その決意のほどが窺える。

「自分の店を持ちたいという思いはずっとあり、富山のいろいろな場所を見せてもらいました。その中で、眺めがよく、さえぎるものが何もないここが最も心に残りました。周囲からは不便すぎると、ずいぶん反対されましたが、最後は自分の直感を信じようと。前職の頃から山へ入って山菜をとるのが大好きだったのですが、山に対峙したこの場所は、まさに山菜の宝庫。それが決め手でした」
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文=小松宏子

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