山梨県がブランド魚「富士の介」が示す、養殖魚のレベルアップ

鈴木 奈央
富士の介の食味について説明しよう。緻密な肉質、上品な脂ののり、深い旨みを兼ね備えている。寄生虫の心配もなく刺身で食べられるのも淡水養殖ならではの楽しみだが、火を入れても身質がパサつかず、しっとりといつまでも口の残る余韻の素晴らしさには驚かされる。海のサケの味わいとなんら遜色なく感じる。

実はこのおいしさは、数値的にも証明されている。水産技術センターでは、筋肉100g中に含まれる旨み系アミノ酸を測定したところ、ニジマスと比較して、アスパラギン酸、グルタミン酸どちらも1.6倍という結果が出た。水産技術センターでは、結果をもってますます自信を持って生産に取り組んでいるという。

また、富士の介は輸入サーモンに比べて低脂肪で高タンパク、現代人の食の嗜好にもマッチしている。プロテインクライシスを迎えようとしている将来的にも有望な魚種といえるだろう。

訪問先で料理を作ってくれた甲府市の「割烹三井」では、富士の介が出荷されるようになった当初からその味に惚れ込んで、店で使用している。刺身や焼き物だけでなく、富士の介尽くしのコースもあり、中骨やエラのから揚げ、内臓の煮ものを突き出しに、寿司、刺身、焼き物、あら汁、茶碗蒸し、しゃぶしゃぶ、だし茶漬けと続く。なんとも美味しそうではないか。

多くの人の努力により、養殖魚のレベルがアップして、良質なタンパク源が確保されていくことは、人類にとって、まさに幸せなことだ。各地でこうした例が増えてくることを望む。

「消費は投票行動」と言われるように、何を選び取って買うか、また何を好んで外食するかは、我々消費者ができる、地球への投票行動とも言える。毎日の食卓に並ぶ魚、外食で選ぶ魚にも、一人一人が思いを巡らすことで、大きな違いが出てくるはずだ。

文=小松宏子

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