「G-Ocean」で手応え Z世代による新たな水産業への期待と希望

リビエラ逗子マリーナで行われた「G-Oceanジェネレーション・オーシャン」のイベント

青森県大間のマグロの不正売買、熊本産アサリの産地偽装、北海道の毛ガニの密漁など……、このところ水産業の不正や犯罪のニュースが後をたたない。いったい何が起きているのだろうか。

地球温暖化で生態系が崩壊、長年続けてきた過剰漁獲や管理漁業の不徹底、IUU(違法・無報告・無規制)漁業などによって、近年、水産資源の激減が止まらない。

これは世界共通の傾向であったが、なかでもIUU漁業は犯罪性が高いという点で、別次元の問題となっている。

欧州連合(EU)は、IUU漁業を撲滅するのに効果的な対策として、先陣を切って2010年よりすべての水産物に対して漁獲証明書の添付を義務化した。これにより、市場からIUU水産物を締め出している。

米国でも、2018年から主要13魚種に漁獲証明書を義務化しており、現在は全魚種の義務化に向けた法案が下院を通過したところである。

その影響で行き場を失ったIUU漁業による違法・不適切な漁獲物が、おのずから規制の甘い日本市場に安価で流入しているのが現状である。現在、日本市場で流通している水産物のおよそ6匹に1匹がIUU漁業由来のものであると試算されている。

流通の「見える化」が犯罪を防ぐ

IUU漁業由来の水産物が流通すると、不当にコストをかけずに漁獲・流通させているぶん、適切な過程を経た水産物より安価で出回る。消費者はどれがIUU由来の水産物か判断ができないので、知らず知らずにこの違法性のある漁獲物を買っていることになる。

このような違法な漁業のなかには、インドネシアなど東南アジアを中心に行われている奴隷労働や児童労働が問題となっているものもあるし、船籍を偽った漁船の事例もある。しかし、大海原で起きる事件は、実態を把握することが困難である。

そんな状況のなか、日本もようやく昨年末、水産物流通適正化法の施行によって、漁獲証明書の義務化に踏み切った。しかしスタートは国内魚種3種(アワビ、ナマコ、シラスウナギ)と、輸入魚種4種(サバ、サンマ、イカ、イワシ)に限られている。

前述の大間のマグロなどの不正売買を見るまでもなく、クロマグロやサケなど、より日本の消費者にとって身近で、市場に多く流通している主要な魚種への早期の漁獲証明書の義務化が待たれるところだ。

この漁獲証明制度は、導入当初は漁業者やサプライチェーンの当事者には手続きなどの負担が増えるだろうが、その反面、その手続きを含めたDX化を進めることによって、より効率的な流通が実現するというメリットもある。

また、漁業現場の高年齢化による人手不足といった問題の解消にも、この効率化はひと役を買うだろう。DX化により、より若い人たちの出番が増えてくれば、新しい漁業の魅力も見出せるかもしれない。

さらに、電子モニタリングシステムの導入のための船上カメラを搭載することで、陸上からカメラを通して操業状況や労働実態が把握でき、乗組員を事故や不当なトラブルから守ることができるようにもなる。今月からは、一部の漁業者が水産庁と協力して、これの実証実験も始まる。

ところがこのような改革が進むなか、残念なことに現行法では消費者への漁獲証明書の開示義務がないので、漁獲情報をどれだけ消費者に伝えるかは、小売業者の選択にかかっている。

この新しい法律や制度の実装を支え、さらに情報提供を求めていくことができるのは、ほかでもない消費者1人1人である。

これからは、誰が漁獲し、誰が流通させて消費者のもとに届くのか、「見える流通」による商品を優先的に選ぶことが、犯罪を防ぎ、持続可能な漁業への転換を促すために、とても重要である。

ではどうしたら、消費者が「自分ごと」として、この水産物の流通の見える化を促進できるのだろうか。私たち海洋環境の改善に取り組む国際NGO「セイラーズフォーザシー」では、鍵を握るのはトレンドを創り出すZ世代ではないかと仮定している。
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文=井植美奈子

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