気候変動のリスクや機会を認識することは、企業の経営戦略にいまや不可欠だ。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の賛同企業が1300社を超えるなど、日本企業の関心も高まっている。
気候安全保障を専門とする関山健京都大学准教授を起点に、水文学者としてIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書策定にも携わっている沖大幹東京大学教授、気候変動対策に取り組む日本企業グループ、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)の三宅香共同代表(三井住友信託銀行フェロー役員)を招き、気候変動対策の世界の最前線と日本企業の課題と展望について聞いた。
──それぞれの専門についてお聞かせください。気候安全保障は最近企業の注目も高い分野です。
関山健(以下、関山):気候安全保障とは、気候変動を遠因として発生する紛争や暴動から国や社会を守るということです。例えば気候変動がもたらす異常気象や自然災害、海面上昇などの環境変化、そこから生まれる気候難民や食糧危機、経済的な困窮などが社会の不安、内戦を招きます。
あるいは、気候変動対策、脱炭素とかエネルギー転換、気候工学も国家間の対立を招く可能性も指摘されています。環境的、科学的な紛争に至るメカニズムもあれば、より国際政治学的な対立の種になることもあります。日本ではなじみの薄い分野だったと思いますが、近年は特に金融関係や製造系で関心の高まりを感じます。過去2年ほど気候変動対策やESGに関心ある金融業界から話を聞きたいと言われることが多かったです。
──日本の意識も高まってきていますが、国際議論の場で日本と海外の温度差はまだ感じますか。
沖大幹(以下、沖):なぜ温暖化が悪いのか、温暖化を止めないといけないのでしょうか。日本では、豪雨や熱中症の増加、かんばつによる食糧危機などの自然災害や天変地異を挙げる人が多い。
欧米では、根本は移民、難民問題です。きっかけは2015年、パリ協定の年に起きた欧州の移民危機で、人口の約0.4%の移民が入ってきただけで大きな政治不安をもたらしました。途上国と地続きの欧米に対して、日本は島国で辺境の地。その点で危機意識の差が大きい。IPCCの第6次報告書に、2010年から2020年の平均の気象に関連した移住数があります。年間、世界全体で1000万人ほど。一時避難も含めた移住者数です。この移住人口がさらに増えていったときにさまざまなあつれきが生じて、社会不安が生じる。それが深刻な問題だとみんな思っています。