関山:サステナブル経営への注目が高まってますね。世界的な経済成長の見通しが下がってきたことと比例して、「株主利益優先はもう古い」という風潮になったのかもしれません。さらに、あと10年ぐらいするともう1段潮目が変わるかもしれません。2030年を過ぎると、温暖化が1.5°Cを超えてくる確率が相当高い。1.5°Cを超えてくると、いろんな気候変動の影響が激甚化する。そうすると世論が変わってきて、産業界も、「自分たちは関係ない」と言っていられるところはどんどんなくなっていくでしょう。
そこで出てくるのが、気候変動対策のプランB、いわゆる気候工学を使う機運が高まるかもしれません。今、世界のグリーンエネルギー投資は年間約160兆円。一方で、大気中にエアロゾルをまくなどして、太陽光を遮断して温度を下げる太陽放射管理のコストは、せいぜい年間2兆~3兆円と見積もられている。かなり安くできるんです。
大学と一緒に企業も、二酸化炭素の貯蔵・回収(CCS)がビジネスベースに乗るような技術開発というのをやっていく、それと同時に脱炭素社会に向けた再生エネルギーを導入するなど、緩和対策とCCSのような適応策の両方をやる必要があると思います。
沖:昔は、適応策の話はタブーでした。ただ、緩和対策だけでは被害は防げないことがわかったので、いまは両者は気候変動対策の車の両輪だとされています。しかし、第6次評価報告書でも適応策の限界があることを強調しています。予防線を張っているんです。そうしないと、つい「適応策があれば要らない」と思ってしまう。
三宅:楽なんですよね。「変えなくていい」となってしまう。それはいまのメッセージとして正しくない。COP26で潮目が変わったように、いまは温度上昇を1.5°Cに抑えよう、「KEEP ALIVE1.5°C」を国際社会みんなでスローガンにしています。適応策が必要でも、絶対に脱炭素社会にしないといけない。化石燃料依存から脱却するという、この方向性を変えることはもうありません。
沖:それは間違いない。変わらないですね。
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TCFD
気候関連財務情報開示タスクフォース。20カ国・地域(G20)の金融当局でつくる金融安定理事会(FSB)が設置した機関で、財務に影響のある気候関連の情報の開示を推奨する報告書を発表。戦略、リスク管理、指標・目標の4つの開示を提言。
IPCC第6次報告書
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2022年2月に公表。気候変動の悪影響がすでに広範囲に起きていること、今後も複数のリスクをもたらすことを指摘。実現可能で効果的な適応の選択肢の存在とその限界、包括的な取り組みの必要性を強調。
1.5°C目標
2015年策定のパリ協定で示された。産業革命前からの世界平均気温を「2℃より十分低く保ち、1.5°Cに抑える努力をする」としている。1.5°Cに抑えられれば、2度の場合と比べて悪影響が少なくなる。21年のCOP26は1.5°C目標の追求で合意した。
CCS/CCUS
「Carbon dioxide Capture and Storage」「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略。二酸化炭素の貯蔵・回収(CCS)や、その活用(CCUS)をする取り組みや技術のこと。CCSは、CO2の分離、回収のコストの高さが課題。