暮らし

2023.08.06 12:30

日々の生活を豊かに楽しく過ごすことの天才=イタリア人が生み出す家具の魅力

アルフレックス ジャパン 代表 保科卓

アルフレックス ジャパン 代表 保科卓

世界の国々にはそれぞれに基幹産業というものがあるが、ファッションに並びイタリアを支える産業がインテリアだ。なかでもハイエンドなラグジュアリー&モダンファニチャーの分野では他の追随を許さない成熟度と幅広さ、そして圧倒的シェアを誇るが、戦後の復興期にモダンデザインの先駆けとなるファニチャーを発表し、その礎を築いたのがアルフレックスである。イタリアのインテリアは、なぜ世界を席巻したのか。1969年に創業し、いち早くモダンなイタリアンファニチャーを日本に紹介した日本法人、アルフレックス ジャパンで代表を務める保科卓に聞いた。

日々の生活を大切にする文化に育まれて

「弊社の創業者である私の父は、当初日本のファッションブランドに勤めていたのですが、高度成長期を迎えて豊かになったわが国を目の当たりにしつつ、まだ何かが足りていないと感じていたそうです。そしてイタリアをはじめとした海外に仕事で赴くなかで、日本のファッションや車は洒脱になったのに、インテリアはまだまだということに気づきました。そこで家族とともにイタリアに渡り、アルフレックスに未経験ながら家具製造の工員として入社。のちにさまざまなノウハウを学んで帰国する際、日本法人の設立を持ちかけられてアルフレックス ジャパンを創業したのです。

私はイタリアで暮らし始めたときはまだ3歳だったのですが、物心ついたころには自宅のインテリアはすべてアルフレックスであり、その美しさや使い心地が幼少時から大好きでした。そして早くから将来の道はこれしかないと決め、大学卒業と同時に迷いなく弊社へ入社したのです」

イタリアから帰国し、保科の父が起業した時代、日本の一般的な住環境はのちに海外から“ウサギ小屋”とやゆされるような、狭く質素なものであった。イタリア製の高級家具を設えた家庭などはまだごく一部であり、氏が少年時代に友達を家に招くと、見たこともない大きく美しい家具にみな驚いていたという。そうした時代より、日本に住まいながらイタリアのインテリアに囲まれて育ったからこそ、一層イタリアンファニチャーに魅了されたのだろう。そんな保科は、誰よりも知り尽くしているであろうイタリアのインテリアの魅力をこのように語る。

「よくイタリア人はバカンスのために働いているとジョークをいわれますが、彼らは日々の生活を豊かに楽しく過ごすことを人生で最も大切にしています。そんな彼らにとって、家具は生活を豊かにするための道具のひとつであり、生活の一部としてライフスタイルに組み込まれています。だからこそ素材やデザインにこだわりますが、生活の主役はあくまで人なので、概してシンプルです。そして長く使えるように、上質な素材を用い、傷んだら修理して使い続けられるようになっています。こうした日々の生活を大切にする文化のなかで育まれ、イタリア人の生活に溶け込んでいるからこそ、イタリアのインテリアは魅力的なのだと思うのです」
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direction by Akira Shimada | photographs by Akira Maeda, Shungo Tanaka | text by Yasuhiro Takeishi

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