暮らし

2023.08.06 12:30

日々の生活を豊かに楽しく過ごすことの天才=イタリア人が生み出す家具の魅力

いつもイタリア人が幸せに見える理由

ライフスタイルの一部として、ファッションやインテリアを同じ目線でとらえる。だからこそイタリアのインテリアには、何よりも豊かさや美しさが求められるのだ。現在のように多くの日本人が洋式の家具を使うようになったのは、保科の父のような先達による尽力の結果であり、高度経済成長以降のこと。つまり歴史がまだ浅く、インテリアが万人のライフスタイルにまで組み込まれているとは言い難い。ファッションにはこだわっても、家具は機能性やサイズから選ぶといった人は少なくないだろう。

そう、保科の父が50年以上前に気づいた日本に足りないことは、いまも完全には解消されていないのだ。ゆえに保科は、イタリアのインテリアを通し、日本に真のライフスタイルが根付けば幸いと願っているという。

「現在は日本にもライフスタイルという言葉は浸透していますが、生活のなかで実践されているかといえばまだまだでしょう。ゆえに私はもっと日本にも、日々の暮らし全般を楽しむ文化が広まればと思っています。イタリアの人々はファッションやインテリアに限らず、暮らし全般をバランスよく楽しみます。しかもそれは特定のクラスに限った話ではなく、すべてのイタリア人に言えることなのです。

だからこそ彼らは、いつも人生を謳歌しているように、幸せに見えるのでしょう。私は裏千家の茶道をたしなむのですが、お茶には食をはじめ、ファッションからインテリア、空間、そしてアートまで、ライフスタイルをかたちづくるすべての要素が揃っています。実際の生活とはまったく異なる世界ですが、ライフスタイルの一端を提案する者としては、とても勉強になるのです」

総合芸術の先駆として、世界から評価される茶道。そんな誇るべき文化を生み出した日本には、かつてイタリアにも劣らない、美しく豊かで均整の取れた独自のライフスタイルが確かにあった。そうした歴史と文化を下地にもつ私たちだからこそ、イタリアのインテリアに真の豊かさを見いだすことができるのだ。そして日本と世界の美意識が調和した、美しく新しいライフスタイルを生み出せるはずだ。


保科 卓◎1965年、京都府生まれ。慶應義塾大学卒業後、アルフレックス ジャパンに入社。イタリア駐在員などを経て、2005年にいったん家族と渡英し、39歳で経営学修士(MBA)に挑戦。3年後に見事取得し、2013年に父・正(現・顧問)の後を継ぎ、代表取締役社長に就任する。「生活の主役は人であり、一人ひとりに豊かなライフスタイルを提案する」という創業時の理念を受け継ぎつつ、さらなる成長を目指す。

direction by Akira Shimada | photographs by Akira Maeda, Shungo Tanaka | text by Yasuhiro Takeishi

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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