いつもは海の向こうからの報道でしか触れられない大谷選手のプレーを、今年のWBCでは生で見ることができた。一球一球投げるごとに「うっ」と声を吐き出しながら、まるで身を削るように投げ込む魂のこもった姿は、鶴の恩返しの鶴を思い起こさせた。
さらにドキュメンタリー映画「憧れを超えた侍たち 世界一への記録」に映し出された言動や表情を通して、幾度となく私の心の奥に響いたのが、今までみたことがない「軽やかな」リーダー像だ。その資質を、WBCのシーンを追いながら私なりに考察してみたい。
1. 発信力
試合前の声がけ。穏やかな笑みを讃え、切り出したかの有名な一言、「憧れるのをやめましょう」。まず相手に「えっ、何に?」と軽い疑問を抱かせ、本題へと引き込んでいく。そして「今日僕らはトップになるために来た」とピークへと誘う。対戦相手を尊重しながら、チームメイトを鼓舞する完璧なスピーチ。海外からも「アメリカ人として、このスピーチには魂が震えた」「史上最も礼儀正しい士気上げスピーチ」「完全にロックスター並みのカリスマ性」といった声が寄せられた。彼は人を引きつけ、集中させ、エネルギーを与える話術さえ身につけているのだ。なんと賢いリーダーなのだろう。
2. 統率力
決勝戦での旗手、大谷率いるJAPAN vs トラウト率いるUSAが出会う入場シーン。構図からして美しく、劇的で、頂上決戦にこの上なくふさわしい光景だった。決意満ちた表情で威風堂々と歩を進める大谷選手は、まるで戦場に向かう将軍のように背中でチームメイトと栗山監督までをも引っ張っていた。これまでの日本だったら、年功序列でダルビッシュ選手が旗手を務めるのが既定路線だったかもしれない。彼は2009年のWBCの胴上げ投手で、実績ではチーム一。今回もメジャーリーガーの中でいち早く帰国し、半ばコーチのように若い選手たちの指導に当たり、献身的にチームをまとめていた。どのような経緯で今回の旗手が決まったのかわからないが、大谷選手は名を受けて、妙に遠慮したり億することなく、潔く受けたのでないかと想像する。