楽天に学ぶ、意思決定のトレードオフ 成長のために失うものとは

楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏(Photo by Jun Sato/WireImage)

楽天が厳しい状況にある。

2020年に本格参入した携帯電話事業が財務を圧迫し、公募増資や第三者割当増資などで3000億円程度の資本増強計画が発表されたのはご承知の通り。

しかし、その後も肝心の楽天モバイルの契約数は伸びる気配がなく、これから社債の大量償還が控える中で、どうやって経営立て直しを図るのかが注目されている状態だ。

このコラムでは具体的な楽天の課題に触れることはしない。代わりにこの事例の抽象度を高め、より汎用的な、経営者の意思決定におけるトレードオフ構造という側面から考えていきたいと思う。

そのトレードオフ構造とは、「富かコントロールか」という問題だ。

この言葉は、ハーバード・ビジネススクール教授のノーム・ワッサーマンが書いた書籍『起業家はどこで道を誤るのか』(小川育男訳、英治出版)から引用したものだ。

ちなみに、本書はワッサーマン教授が10年にわたり、1万人近くの起業家にインタビューしてまとめたリサーチ結果だ。これほど生々しい意思決定の調査をまとめた書籍も珍しいので、機会があればぜひ一度読んでほしい。

「富かコントロールか」というトレードオフについて、ちょっと解説しよう。

起業家はチャンスを追い求め、企業価値を最大化しようとする。その時にぶつかるのがリソース調達問題だ。組織が拡大を志す際には必ず、人材、情報、資金といったリソースが必要になる。

しかし、当然ながら、それはただでは手に入れることができない。リソースを手に入れるために引き換えとして、コントロールを少しずつ手放すこととなる。だからこそ、企業を成長させるために、どこまでコントロールを失うか?という大きなトレードオフが立ち上がるのだ。

楽天のケースはまさにこのトレードオフにおける、かなり極限的な問いに向かい合っていると言えるだろう。携帯電話事業の成長という富を選ぶか、それとも企業におけるコントロール権を維持し続けるか。うまく立ち回らなければ、どちらも失いかねない難易度の高いジレンマ状態だ。

意思決定の現場では、このようにして「富か? コントロールか?」と何度も繰り返し問われることになる。

そしてこれは、スタートアップに限った話でもなければ、組織の意思決定に限ったことでもない。個人のキャリアにおいても、このトレードオフの問いをはらんでいる。

たとえば、「出世」ということを考えてみよう。
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文・イラスト=荒木博行 編集=宇藤智子

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