そんな疑問を感じたことがある人は、決して少なくないだろう。
絶対不可能な予算を立てて、実際未達のまま終わってしまったり、あるいは、絶対売れないであろう商品をトップダウンで作って、案の定売れなかったり。
この手の話は枚挙にいとまがない。そしてまた、私たちの身の回りだけでなく、ベンチマークの対象となるようなビック・テックでも日常的に起きていることだ。
例えば、アマゾン史上最大の失敗という異名を持つ「ファイアフォン」の顛末も、当事者からすれば「そんなアホな...!」と言いたくなる意思決定だっただろう。
ファイアフォンは、創業者のベゾス自らも力を注ぎ、2014年に鳴り物入りで発売した3D対応のスマートフォンだったが、1年あまりで1億7000万ドルもの損失を出して撤退した。
ブラッド・ストーンが書いた『ジェフ・ベゾス 発明と急成長をくりかえすアマゾンをいかに生み育てたのか』(井口耕ニ訳、日経BP)には、その内部の混乱が伝わってくる。
“ タイト開発陣側は、ベゾスが掲げるスマートフォンのビジョンに納得していなかった。3Dディスプレイなど電気ばかり食う小細工にすぎない。それ以上のものにはなりえないと。
「スマホのカレンダーなんて使う人、いるのか」とベゾスが聞くなど、スマートフォンが世間でどう使われているのか、ベゾスにわかるわけがないと思わされることもあった。”*1
(筆者注:「タイト」は開発コードネーム)
“「関係者が口をそろえて警告していたとおりの理由で失敗したっていうのがなんともな点です」
プロジェクトに早い段階で参加し、当初から成功はおぼつかないと思っていたソフトウェアエンジニア、アイザック・ノーブルの言葉だ。”*2
もはや神格化されているジェフ・ベゾスですら、これほどの失態を犯している。
裏を返せば、多くの画期的な決断を下してきたベゾスですら、こういうことをやる。私たちがいざという時にこんなお粗末な意思決定をやらないという保証はどこにもない。
いや、むしろ「偉大なベゾス」ということですら幻想なのかもしれない。たまたま壮大なじゃんけんのトーナメント戦で優勝しただけのことかもしれないのだ。
一夜にしてマーケットが大きく変化する時代において、所詮一人の人間は、等しく何もわからない無能な存在だと考える方が健全なのだろう。
マシュー・ボールが書いた『ザ・メタバース 世界を創り変えしもの』(井口耕ニ訳、飛鳥新社)では、アップル創業者スティーブ・ジョブズの印象的なコメントを巻末に引用している。