キャリア

2023.06.25 11:00

日本にいま「ソーシャルジャスティス」が必要な理由

成相 通子

小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長の内田舞氏

2023年5月に『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』 (文春新書)を上梓した内田舞氏。日本の医学部在学中に米国医師国家試験に合格し、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医となった。現在は、小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授として米国で活躍するかたわら、新型コロナウイルスのパンデミックをきっかけにSNSで日本向けへの発信もしている。

なぜいま日本に「ソーシャルジャスティス」が必要なのか。「SNSの炎上」も経験した内田医師にインタビューした。

──「ソーシャルジャスティス」という言葉はまだ日本では馴染みがありませんが、どのような意味なのでしょうか。また、著書の執筆のきっかけについて教えてください。

ソーシャルジャスティスとは、多くの人に均等に権利と機会が与えられていて、それぞれの「良いところ」が発揮できること、ハッピーでいられることだと思います。私はこれまでの経験からソーシャルジャスティスが実現される社会になってほしいと強く思っています。私だけでなく、多かれ少なかれ多くの人はそういった思いをもっているでしょう。

でも、日本ではいま、それを口にしてはいけない雰囲気があるんじゃないかと感じているんです。斜に構えて、ニヒルなことを言って笑いをとるのがカッコよくて、王道の正義を唱えるのは少しカッコ悪い。変化を望んではいけない、変化を望んでも仕方がないとあきらめてしまうような環境があるような気がしているんです。正義や理想を真正面から語る前に、極論を持ち出して正義にはいろんな角度があるから一概に正義がいいとは言えないと片付けてしまったり。言い訳が先行してしまう。だからこそ、いま正面からソーシャルジャスティスを訴えなければいけないと思いました。

まずは一歩出してみること。正義を実行して、それから批判を受けることもあるかもしれないけれど、正義を批判ばかりする雰囲気は寂しいです。もっとみんな夢を見てほしいし、正義をもっと正面から語れるような雰囲気になってほしいという思いを込めて、ソーシャルジャスティスというタイトルにしました。

──表紙の写真は、2021年1月の第三子妊娠中に新型コロナワクチンを接種した時のものですが、この写真をきっかけに新型コロナワクチンの啓発活動もされていると聞きました

私は2007年に渡米して16年経ちますが、日本で活動したことはほとんどなかったんです。それが、SNSで日本向けのワクチン啓発者になるなんて夢にも思ってもみなかったですね(笑)。

写真について説明すると、私がたまたま米国で医師をしていて、世界的に見てもワクチン接種をするのが早かったんです。しかもその時期にたまたま三人目の息子を妊娠していました。自分としてはワクチンを接種する意義が明らかだったので、特別な意識もなくしたことだったんですが、所属している病院が「妊婦の医師も受けている」とSNSにアップしたら、日本で突然注目を集めました。

日本ではまだ新型コロナワクチンが承認もされていない時期で、新しいmRNAワクチンに対する漠然とした不安を持った人が多かったようです。私は、ワクチンを接種するリスクと接種しないリスクを科学的に比較して、接種しないリスクの方がずっと大きいので接種することにしたんですが、日本からたくさんの取材を受けました。
次ページ > 渡米のきっかけになったこと

ForbesBrandVoice

人気記事