キャリア

2023.06.25 11:00

日本にいま「ソーシャルジャスティス」が必要な理由

小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長の内田舞氏

そこで意見を言って意見を受け入れられるかというと、そうでない場面もあるし、実際、マイノリティへのヘイトクライムも起きています。でも、それを変えたい、変えようとするエネルギーも日常生活のなかで感じることができるんです。
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それと比べて、日本はしずかちゃんの話のように、気づいていない人が多い。そういう差別が起きていることに対して、言及されていない、認識されていない。米国の一部の州では人工妊娠中絶が禁止されるという、とんでもないことが起きました。では、日本は人工妊娠中絶が禁止されていないので、女性の権利が完全に守られているかというと、そうではないですよね。メディアで描かれる女性像は社会の無意識の偏見を象徴しているし、それを私たちが受け取ることでさらにその無意識の偏見が深まっています。

この無意識であるということがポイントだと思います。共通認識として問題視されていないことが実は問題なのに、それが理解されていない。

もちろん、メディアで表象されるような女性になりたい女性がいてはいけないというわけではありません。たくさんの選択肢のなかから自分はなりたい像を選ぶという自己決定があればいいのですが、女性にたくさんの選択肢が与えられていない。そういったロールモデルというのが少ししかないというのが現状だと思うんです。そういったなかで、社会からのプレッシャーや、それが内在化してしまった固定観念によって女性の生き方の幅が狭められてしまっている。それに対して私は問題提起したいと思いました。
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──日本で本を出版されてみて、その反応や受け止め方についてどう感じられましたか。

この本は、私の正直な思いをストレートにつづりました。16年前、日本を去った私も、この本も、同じように受け入れられないんじゃないか、やっぱり嫌な思いをするのではないかと少し恐れていたんです。でも、実は日本でも、私の思いを受け止めてくれる人がいっぱいたることを発見できました。

Amazonの総合ランキングでトップテンにも入りましたが、その購入者のコメントでは、個人的な経験を共有してくれたり、本の中の共感したところを教えてくれたりしています。多くの人がこの本から気づきを得て、一部には行動してくれた人がいる。社会において大切な会話を引き出しているというのは、すごくありがたいなと感じました。

気づくこと、考えること、そして自分の出来る行動をすること。その行動の幅は一人ひとり違っても、とにかく一歩踏み出すことは、必ず何かいいものに貢献します。何も変わらないとあきらめが先行して、考えることも気付くこともやめてしまうのは、本当に残念です。社会のためだけではなく、自分自身のために一歩踏み出してほしいし、あきらめないでと伝えていきたいです。


内田舞◎小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長、3児の母。2007年北海道大学医学部卒、2011年Yale大学精神科研修修了、2013年ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児精神科研修修了。日本の医学部在学中に、米国医師国家試験に合格・研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医となった。趣味は絵画、裁縫、料理、フィギュアスケート。子供の心や脳の科学、また一般の科学リテラシー向上に向けて、三男を妊娠中に新型コロナワクチンを接種した体験などを発信している。

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