食&酒

2023.06.24

「とおの屋 要」佐々木要太郎が語る 地方のレストランが持つ力

オーベルジュ「とおの屋 要」の佐々木要太郎シェフ

料理人にして米農家・醸造家、3足のわらじを器用に履きこなす佐々木要太郎氏。江戸時代から続く岩手・遠野の武士をルーツにする佐々木家は6代にわたって続き、民宿の経営は4代にわたるという。

佐々木氏が醸している酒はどぶろく。日本に稲作が根付いたときから、神に奉納される酒として造られてきたという長い長い歴史を有する酒だ。米と米麹、水で醸したもろみを、漉さずにそのまま飲む。遠野は日本でも屈指のどぶろく生産地で、日本で一番早くどぶろく特区に認定されている。

一般的には素朴な酒と思われてきたそれを、エレガントで洗練されたものに仕上げ、世界にもその価値を認めさせた佐々木氏は、革新的な造り手といえる。22歳で醸造免許を取り、有名蔵元で修業を積むなどし、12年かけてレシピを完成させ、今に至るという。

米糠の醸造酒「権化」シリーズ4本

米糠の醸造酒「権化」シリーズ

一方、料理人としては、京都の割烹で修業した父親について4年学んだ。朝早くから夜遅くまで仕事をしていた父の背中を見て育ったから、修業はまったく苦ではなかったという。代替わりをして、佐々木氏が店主を務めるようになってから18年。

現在は1日1組限定の宿として本館である「民宿とおの」とは別に、和のオーベルジュ「とおの屋・要」を営業している。地元の自然とフュージョンした独創的な料理に舌鼓を打ち、店主とどぶろくを酌み交わしながら、時を忘れて話し込んでしまう。そんな心癒されるオーベルジュとして数カ月先まで予約は満杯だ。

佐々木氏のもの作りの中心に位置するのは「米」だ。現在は3haの自家水田と3軒の契約農家の米を使用してどぶろくを作っている。米を作るうえで一番大切なのは、土づくりだと断言する。借り受けた土地を10年かけて、化学的な成分を完全に抜き、健全な状態に戻してきた。土質が良くなるにつれて、酒質もどんどんよくなっていると聞く。

「完全無農薬栽培はもちろん手はかかりますが、自分の酒造りの大前提です。それを広め、日本の土壌をよくしていきたい。とはいえ、一人でできることには限界があります。各々が各々の土地で完全無農薬栽培でやれるような仕掛けを考えてきましたが、ようやく近年、成果を上げてきています。全国の蔵元が勉強にきて、自分の土地に戻って無農薬栽培に切り替えるというケースが増えてきています。日本人の米離れが進んでいる今、米は食べる時代から飲む時代へと変えなければいけないと思っています」

そう力説する佐々木氏は、日本酒の消費量をのばしていくために、「我々のようなマイクロブリュワリーは、品質に絶対に妥協してはいけない」とも話す。価格競争ではどうやっても大手には敵わないが、飲めば一目瞭然。選ぶのは消費者だ。「太陽と月の関係のように、大企業があるから、自分たちが輝くということもあります」と信念を語る。
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文=小松宏子 編集=鈴木奈央

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