食&酒

2023.06.24 12:30

「とおの屋 要」佐々木要太郎が語る 地方のレストランが持つ力

オーベルジュ「とおの屋 要」の佐々木要太郎シェフ

料理は和食がベースだが、唯一無二の味の組み立てが人を惹きつけてやまない。例えば、豚肉で熟鮓(なれずし)を作り茶碗蒸しにしたり、自家製納豆のスフォルマートといった、食べるまで味わいが想像のつかない組み合わせと言った具合だ。
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豚肉の熟鮓というのは、豚肉を無農薬・無肥料にて自家栽培している米「遠野1号」を使い発酵させたもの。スフォルマートは納豆を卵で覆ったイタリアの包み焼きのような料理だ。どれも一口では味わいを表現するのが難しいような、複雑な味わいを口と心の中に残してくれる。それこそが佐々木氏の目指すところだ。

自家製納豆のスフォルマート

自家製納豆のスフォルマート


そしてまた、それに合わせるどぶろくの美味しいこと。どぶろくとのマリアージュを意識した料理なのかと聞くと、意外にも、どぶろくのことはまったく考えずに作っているというのだから驚く。1本芯の通った一人の人間が作っているからの自然の摂理なのであろう。

料理のオリジナリティを高めていることの一つが、さまざまな発酵技術だ。
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「発酵という言葉やコンセプトが流行りのようになってしまっていますが、機械で温度だけを管理して発酵させたものは“単味”。先人の知恵である発酵は、真夏の炎天下でのこともあれば、雪の中のこともある。厳しい自然環境の中でゆっくり発酵したものは、“多味”なんです。本来は人が苦手とする苦味や酸味が少しずつ含まれているから美味しいん。現在は、私が教わってきた伝統的な発酵の方法から、塩を極力抜いて、さまざまな黴の力で素材を守るという手法を活用しています」

だからこそ複雑な余韻が生まれる。とはいえ、発酵に特化しているということではなく、あくまで土地の料理の表現の一つだという。
オーベルジュ「とおの屋・要」

オーベルジュ「とおの屋・要」


佐々木氏は、例えば牛肉にうにをのせて供するなど、グルメ番組で「旨っ!」が連発されるような素材に頼った美味しさは求めていないという。食材の旬はもちろん意識するが、高級食材はほとんど使わない。

近隣の農家が蕪や葱を持ってきてくれたり、近所の住人が獲った川魚や採取したきのこを買い取ったり、スーパーで廃棄寸前になっているえのきを買い占めて、なんとか使う方法を考えたり……。仕入れに関してはそんな具合だ。まさに身土不二の考え方と言える。

「一番味わってもらいたいのは、この土地の喜怒哀楽なんです」という言葉が強く心に残った。一年の半分が冬という厳しい土地で生まれ育った佐々木氏の心の声なのであろう。
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文=小松宏子 編集=鈴木奈央

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