そんな中で、2016年頃、どぶろくを海外に輸出することになり、スペインやイタリアと遠野を行き来しながら2年間を過ごした。両国の大学でどぶろくの講義をするまでになり、欧州の文化に深く触れることで、客観的に遠野という土地を見ることができ、それがきっかけでがらっと料理を変えることができた。
「イタリアでは長い歴史による文化の濃さ、店主と客が対等であることなどを肌で実感しましたし、スペインでは考え方の自由さに深く影響されました。帰国後、台風のあとの海のように浄化されたというか、お客さんもがらりと変わり、料理も今の方向に落ち着いたのです」
また、地方と都会の役割をきちんとわけるべきだという思いも持論だ。「都会では『旨っ!』があっていいと思うんです。東京の役割は全国から最高級の食材を集めて、それを世界の人々に披露すること。逆に地方を謳ってしまっては、地方に対してマイナスになりかねない。それよりも、都会には、地方の大自然の中で生まれたものを、きちっとした適性な価格で買い支えてもらったほうがありがたいですね。そしてガンガン世界の富裕層に売ってもらいたい」
一日のサイクルを聞くと、朝起きてまず田んぼに行き、手入れをしてから醸造所へ。その後、厨房へ入り、片腕である女性シェフにまかせている仕込みを、仕上げていく。終わったらまた田んぼへ行ったり、配達をしたり。そして夕食の時間を迎える。家は寝に帰るだけだそうだ。
ストイックさに感心すると、自分には厳しいほうだと思うが、決してストイックなのではなく、人にも土にも米にも動物にも虫にも平等なだけだと言う。
「悲しいかな、地球上の自然環境を壊したのは全部、人間。でもまた、地球が抱えている問題を解決できるのも人間しかないんです」
その一助となればと、佐々木氏は、今日も畑に出る。環境問題を根本的に解決する取り組みとして、自然に負荷をかけない化学的なものを作るか、化学の力はとりあえず止めておいて、この現状を経験でなんとか解決していくという方法のどちらかしかないというのが持論だ。
「今、世界はどんどん前者に行こうとしていますが、それは一部資本力のある企業ができるだけで、解決になっていません。そこに頼るのではなく、民間レベル、家庭レベルで後者の取り組みをもっと積極的にやるべきです。廃棄寸前になっている食材を、家庭で買い切れないなら、飲食店が買い取ればいい。そういうことにこそ飲食店の力をもっと発揮すべきだと思います」
地方地方で方法は異なっても、できることは必ずあるはず。「それがレストランの力なのだから」と、佐々木氏は全国の飲食店従事者に力強いエールを送る。