食&酒

2023.06.01

佐賀の銘酒「鍋島」 三代目当主が果たす地域への貢献

佐賀県鹿島市にある富久千代酒造

「若者の酒離れ」が語られて久しいなか、クラフトビールやクラフトジン、日本ワインなど、味や作り手にこだわりのある酒が消費者を惹きつけている。この数年でブランド化や高級化が進み、輸出量も大きく伸びている日本酒も同様だ。

その一角をなすのが、佐賀・鹿島市で続く富久千代酒造。代表銘柄である「鍋島」は2011年、世界最大規模のワイン品評会 インターナショナル・ワイン・チャレンジで日本酒部門の最優秀賞を受賞。鹿島を「世界一の日本酒のまち」としての輝かせると、翌2012年からは酒蔵ツーリズムを立ち上げ、地域を盛り上げてきた。

2021年には、市内の旧商家を改装したオーベルジュ「御宿 富久千代」をオープン。食と宿泊も含めた、他にはない日本酒体験は富裕層の心をくすぐり、ここを目当てに初めて佐賀を訪れる人も多いという。

「故郷に錦を飾る」と心に抱いてから約30年、地域に根差しながらビジネスを成長させ、海外への販路も拡大している三代目、飯盛直喜社長に聞いた。


娘の日奈子が東京の大学を卒業して、2年前に佐賀に戻って酒蔵に入り、いま酒造りも学びはじめているところです。製造はまだ私がメインでやっていて、外部パートナーとの折衝や海外でのプレゼンテーションなどは妻に取り組んでもらっています。

実は、私はこういうインタビューやメディア露出には積極的ではないんです。というのも、作り手の顔が見えるのは大事なことだと思いつつも、富久千代酒造としては自分以上に「鍋島」という存在が前にでていけばいいと考えていて、チーム鍋島で酒造りをしているということを、イメージだけではなく実際にも大事にしていています。

ファミリー企業ではあるのですが、だからといって当主が目立つ必要はありません。僕が作っているからこの味で、仮に僕が辞めたら美味しくなくなった、なんてことがないようにしないといけないと思っています。

(左から)富久千代酒造の三代目 飯盛直喜社長、娘で四代目の日奈子さん、妻の理絵さん(撮影=山本憲資料)

(左から)富久千代酒造の三代目 飯盛直喜社長、娘で四代目の日奈子さん、妻の理絵さん(撮影=山本憲資)


実際、10年目くらいの中堅スタッフたちが育ち、「鍋島」のクオリティを底支えするチームが整ってきています。ヨーロッパのラグジュアリーブランドが、クリエイティブ・ディレクターを筆頭にパタンナーやPRなど一流のメンバーで体制を構成しているように、今後は娘がクリエイティブ・ディレクター的な立場で関わっていけるようにできたらと考えています。

酒蔵が弱い時代の苦難

僕が富久千代酒造を継いだのは30年ほど前で、そもそもはあまり継ぐつもりはありませんでした。父も、「東京に出なさい」というスタンスで、東京の大学に進学し、そのまま向こうで就職。ただ、父が事故を起こしてしまい、急遽佐賀に帰ってくることになりました。

そこから青年会議所の活動にも参加するようになると、地域主義的な考えへの薫陶と啓蒙を受け、地元に貢献して「故郷に錦を飾る」ことへのモチベーションが高まっていきました。
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取材・文=山本憲資

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