食&酒

2023.05.20

和歌山と世界をつなぐ レストラン「ヴィラ アイーダ」にある幸せ

「ヴィラ アイーダ」小林寛司シェフ

マダムが夜明けとともに畑に出て野菜を収穫し、シェフはキッチンで仕込み。そしてランチタイムに1日1組だけのお客様を丁寧に迎える。その後、日が暮れるまで二人で畑の手入れに精を出す。
 
そんなライフスタイルを送っているのが、年間200種の野菜を栽培する菜園イタリアン「ヴィラ アイーダ」を営む小林寛司シェフ夫妻だ。
 
店を構えるのは、関西空港からタクシーで30~40分、和歌山県岩出市に位置する、便利とは言い難い立地。しかし、イタリアの田舎家のような雰囲気のある空間で、野菜の生命力そのものをいただくような料理に舌鼓を打ち、ゆっくりと過ごすひとときは、まさに幸せな時間としか言いようがない。2022年には、ジャパンタイムズの「Destination Restaurants」ベストオブザイヤーにも輝いた。

創業24年、多くのシェフや料理人を目指す若い人にも影響を与えてきた“憧れの店”として知られている。しかし小林氏に話を聞くと、「食えるようになってきたのはこの2~3年ですよ」というから驚きだ。野菜を育て、土の恵みを主役に料理をするというスタイルも、自らの意志というよりも、流れの中で出来上がっていったという。

試行錯誤の20年

小林氏は、料理人を目指し辻調理師学園を出たあと、大阪のイタリアンレストランで働いたのちイタリアへ渡り、4年ほど、星付き、星なしのトラットリア含め、多くの店で経験と積んだ。帰国後、実家の土地に一軒家のレストランを建ててレストランを営むというスタイルに、何の迷いもなかった。


オープンを迎えたのは1998年のこと。ハーブだけは自分で育てようと、隣に菜園を作った。正統派の実に美味しいイタリアンを出すも、なかなかブレイクとはいかなかった。遠くからも集客したいと、1部屋だけのオーベルジュを作った時期もあったが、長くは続かなかった。
 
4~5年目くらいの一番お客さんが少なかった時期に、調理場にいてもすることがないから種をまき、畑でもやってみようかと、本格的に野菜を栽培し始めた。それでもレストランをやめなかったのは借金を抱えての意地でしかなかったという。
 
状況が上向いた一つのきっかけが、シェフたちが生産者を訪ねるようになったことだった。市場で仕入れるのがあたりまえだった時代に、産地から直接取り寄せるシェフが少しずつ増えてきたのだ。そして産地にも足を運ぶようになっていった。和歌山に来て、そのついでに寄ってくれて、「ここいいな」というのが口コミで広まったのだという。
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文=小松宏子 編集=鈴木奈央

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