食&酒

2023.05.20

和歌山と世界をつなぐ レストラン「ヴィラ アイーダ」にある幸せ

「ヴィラ アイーダ」小林寛司シェフ

今では、意識の高い料理人が生産者に向き合うことがスタンダードになっているが、それがふた昔前にようやく起こり始めたムーブメントなのだと思うと、この20年間の変化がいかに大きかったかということを思い知らされる。そして、ヴィラ アイーダはそんな流れに先駆けたレストランだったともいえるのだ。
 
「でも、それもそんなに長くは続きませんでした。その後、地方イタリアンのブームもありましたが、やはりそう長くは続かず、その後はフレンチブーム、北欧ブームと続いて、本当にギリギリしのいでいる感じでした」

明確になった「目指す料理」

20年たって借金を完済し、やめてもよかったが、最後にもう一度、やりたいことをやってみようと、1日1組で大テーブルを囲んで、豊かな時間を共有できる空間を提供するスタイルにシフトした。それには、丁寧なもてなしをしたいということと同時に、お客さまとの距離を縮めたかったという思いがあったからだ。
 

そんな折、2020年に「情熱大陸」に出演することになる。予告編が流れたときから、すでに電話が鳴りやまなかった。そのテレビ出演は決して偶然ではなく、すべての機が熟すとともに、世の中がちょうどヴィラ アイーダに追いついた、そんなタイミングの転機となった。
 
番組内では、世界中の美食家を唸らせる野菜の魔術師と紹介されているが、毎日畑に出ている小林氏にとっては、その野菜の一番美味しい時期を見極めることも、逆に少し早めに収穫して青々しさを楽しませることも、完熟を提供するのもお手の物だ。だから、訪れた客は、ありふれた野菜がこんなに美味しかったのかと驚く。そして、体が素直にその力を受け入れ、元気になるのを実感する。
 
「野菜の農法を聞かれると、いつも、“家庭菜園農法”ですと、答えるんですよ」と小林氏は笑う。「土を耕し、市販の肥料を与え、その後は自然に任せます。虫と草は大変だけど、曲がっていても穴があいていても調理してしまえば、問題ないですし」という言葉に、消費者である我々ももっと耳を傾けなければならないと思い知らされる。

ひと昔前までは、フォアグラなどの高級食材が贅沢とされてきたが、今はそうとも限らない。「体に負担のかからない料理、かつ、普通に見えるけれど普通じゃないものこそ贅沢だと思う。ただのピーマンに見えて、食べてみたらピーマンが驚くほど美味しかったというような」と小林氏は考えている。


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文=小松宏子 編集=鈴木奈央

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