「本来食事とは、生命と体力を維持するものと、好奇心や心を満たすものの二通りがあると思うのですが、その両立を目指したいと思っています。この考え方に行き着いたのは、毎日の自分たちの生活そのものをレストランで提供してきたから。若い頃はまとまっていなかった考えがだんだんまとまってきました」
和歌山と世界を繋ぐ
現在使用している食材は、自分たちの野菜以外には、魚は和歌山中央市場の魚屋にまかせていて、前日に、ざっくりと白身の魚、青魚などと注文する。1.2kgの鯛を3尾という頼み方は決してしない。あるものを使う。ないものを無理にほしがるから、海の生態系が崩れてしまうし、漁師の生活もある。皆が揚がったものを買うようにすれば、自ずとバランスがとれてくるはずだと考えている。
肉に関しては、鹿、猪のジビエと、猪豚とホロホロ鳥を育てている人が近くにいるのでその2種を加え、計4種のみを調理している。
「素材との距離が近いということは料理の根幹。それが、個性につながると思っています。なんでも手に入れ、使おうとすると、料理がブレてしまい、似たようなものができてしまいますから」
これからの夢や目標を聞くと、「仕事も生活のスタイルも今後もそんなには変わらないと思いますが」と前置きしながら、いくつかの答えが返ってきた。
「地元の農家さんや生産者、工芸の造り手などと、都心は言うにおよばず、世界につないでいきたい。例えば、若い農家の中には、レストランにおろしたいという人も多いのですが、彼らはレストランに行ったこともなく、シェフが何を求めているのかがわからない。品種、サイズ、熟度などのニーズを丁寧に伝えてあげることがまず大切です。
まだまだ東京を見ている人が多いので、より広い目線を持って、海外へ送ればいいというようなこともアドバイスしています。なぜなら、海外は日本の野菜を高く評価してくれるからです。付加価値がつきやすいという利点があります。日本における野菜の地位があまりにも低いですから」
こうした実践的なアドバイスは、畑とレストランを両方やっている小林氏だからできることだ。第一次産業の地位の向上のためにも大いに役に立つだろう。また、農業に限らず、工芸の作家さんたちを海外につなげるというような仕事もしていきたいと夢を膨らませている。なぜならレストランにはそれをできる力があると思っているからだ。
野菜の力が和歌山と世界を繋いでいく。さらなる10年、20年楽しみだ。