そこで、「鍋島」の味を評価いただいた関東近郊の酒屋さんに集まっていただき、「鍋島」をどういう思いで作っているか、ストーリーも含めて一から理解してもらう機会をつくりました。そういうことを積み重ねていって、東京でもパートナー的に取り組んでくれる酒屋さんが増えていき、特約店としてプッシュしてもらえるようになってきました。
鹿島で最高の「鍋島」体験を
他の銘柄の展開をほぼやめて、酒造りを「鍋島」に振ってからしばらくは、本当に大変でした。新たなチャレンジのために蔵の経営もギリギリになり、社員にボーナスを出せず、妻は家計を支えるために起業し、仕事を始めました。完璧なネーミングだと自負していたので、もっと早くブレイクすると思っていたのですが、甘かったですね(苦笑)。ブランドとしてある程度土台ができるまで10年はかかりました。30年やってきて、最初の15年は四苦八苦しながら、この15年は少し余裕が出てきて、地域にどう還元するか、といったことにも目を向けられてきたのかなと思います。
娘には、この鹿島の町をより好きになって、跡を継いでいってほしい。地域をどう盛り立てていくかも考えながら酒造りをして、そういう想いが特約店のみなさん、その向こうにいるお客さんにも伝わっていけばと思います。
2021年春には、酒蔵オーベルジュ「御宿 富久千代」をオープンしました。料理やインテリアなども含めて、今までとはまた違う切り口で「鍋島」の魅力を発信する手段だと考えています。この鹿島で、最高のかたちで「鍋島」を体験いただくことで、ブランド価値を高めていきたい。現在は海外のお客さまも多く、ありがたいことに数カ月先までほぼ満室を頂戴しています。
この2、3年は海外の売上も伸び続けていて、全体の7%くらいまできています。メインは中国、香港などアジア圏で、国ごとに信頼できるエクスポーターさんと組んでやっています。とはいえ、他の酒蔵さんに比べると海外比率は低く、今後は欧米開拓に力を入れていきたいと考えています。
その中でも、やはり「鍋島」が九州を代表するお酒であり、地元に愛され地元に誇れるものであるということを胸に刻み、これからもやってきたいですね。