惑星探査機ボイジャーが捉えた土星の迫力
せりか:世界的に見ても、宇宙資源は新しい研究分野なのではないかと思います。宮本先生はどういう経緯で宇宙資源を研究することになったのでしょうか?宮本先生:子どもの頃から宇宙に興味を持っていました。小学4年生のときに、惑星探査機ボイジャー1号・2号が撮影した木星と土星の画像を新聞で見たのを鮮烈に覚えています。もちろん土星に輪があることは知識として知っていました。でも、土星の近くまで行って写真を撮ると「こんなふうになるのか!」と。それはもう、文字で読んで知るのとは圧倒的に違う迫力を感じましたね。
せりか:じゃあ、小学生の頃から宇宙の研究者を目指していらっしゃったんですね!
宮本先生:実はそういうわけでもなくて。中高時代は勉強をさぼって、遊んでばかりでした(笑)。でも世界の名作や哲学書にも関心があったので、仲間に会いに行く電車のなかではドストエフスキーの作品を読んだりしていましたね。
高校を卒業する頃に娯楽業の店で働かないかと声をかけてもらいました。それで自分の人生について考えてみたんです。自分が本当に面白いと思うことをやらないと人生を無駄遣いしてしまう。自分が本当に面白いと思うこととは……?考えを巡らせていくと、一番鮮烈に興味を持っていて、人生を費やしたいと思えたのが太陽系の探査と開発でした。人類はどうやって宇宙に進出していくのか、活動領域を広げていくのか。その助けになるようなことができたら面白いなと思ったんです。
どうすればそのような研究ができるのか分からず、早速本屋に行って、関連の本の巻末を見てみると、著者のプロフィールに「東京大学卒業」と書いてあったんです。てっきり東京大学に行かないと宇宙に携われないのかと思い込んで。本当は色々な道があったはずだと思いますが。結局2年浪人して東京大学に入学しました。
せりか:ボイジャー1号・2号が宮本先生の好奇心へ根源的に与えていた影響力を感じるエピソード、素敵ですね!
宮本先生:東京大学は入学後に専門を決めます。一体何学部に行けばやりたい研究ができるのか迷い、理学部地学科に進むと、先生方からは「君がやりたい研究は理学的ではない」と言われたんです。途中で専攻を変えることも考えたのですが、色々とハードルがあり、結局博士課程まで進みました。
学位を取る前に工学部から助手にならないかと声をかけていただきました。資源工学の研究をしている工学部に来て、私がやりたかったのは宇宙資源だと気付いたのですが、工学部の先生方からは「それは理学だ」と総スカンを食らいました(苦笑)。
その後、アメリカのアリゾナ大学月惑星研究所で、宇宙資源の基礎となる惑星地質学の研究をしました。この惑星地質学という分野は理学でも工学でもない両方の要素が入っている学問で、当時はまだ日本にはありませんでした。月惑星研究所は惑星地質学に関する研究では世界一で、小学生の頃から憧れていた木星の衛星や火星の専門家と一緒に研究に参加することができました。
アメリカから戻ると、今度は東京大学の博物館から声をかけていただきました。博物館では思う存分に探査計画に参加して、研究ができました。しばらくすると、学内のいくつかの専攻から教授にならないかと声をかけていただきました。最終的に工学系に所属し、その後2022年までは工学系研究科システム創成学専攻の専攻長も務めました。