このシリーズでは、ワープスペースのChief Dream Officerに就任した伊東せりか宇宙飛行士と一緒に宇宙開発の今と未来を思索していきます。
第14弾となる今回のテーマは、宇宙の持続可能性についてです。スペースデブリ(宇宙ごみ)の回収を含む軌道上サービス事業に取り組むアストロスケールの代表取締役 伊藤美樹さんをお迎えして、宇宙環境と地上の暮らしのかかわりや軌道上サービスの動向についておうかがいしました。
SDGsの根幹にある持続可能な宇宙利用
©︎小山宙哉/講談社
せりか:伊藤さん、よろしくお願いします!私が滞在した国際宇宙ステーション(ISS)もスペースデブリとの衝突を回避するために、軌道を変更することがあり、デブリはとても身近な問題だと感じています。
アストロスケール 代表取締役・伊藤美樹さん ©︎アストロスケール
伊藤さん:せりかさん、よろしくお願いします。宇宙は三次元的に広い空間が広がっていますが、衛星の運用に適している軌道は限られていて、そこへ打ち上げられる衛星が増えています。衛星にデブリが衝突すると、衛星が壊れるだけではなく、衛星の破片が数千個のデブリになって散らばっていき、さらにほかの衛星にも衝突してしまう「ケスラーシンドローム」と呼ばれる衝突の連鎖が起きる恐れがあります。一度ケスラーシンドロームが起きれば、その軌道は回復するのに何百年もかかってしまいます。
せりか:この連載企画では、これまで宇宙技術と地上の暮らしのかかわりやSDGsへの貢献についても、ゲストの皆さんと議論を重ねてきました。
農業、都市インフラ…人工衛星が守る私たちの暮らし【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#1】
ケスラーシンドロームが起きて、GPSや衛星通信、衛星データが使えなくなってしまうと、暮らしには大きな影響が出そうですね。アストロスケール社はどのような事業に取り組んでいるのでしょうか。改めて教えてください!
伊藤さん:私たちが目指しているのは、“ロードサービスの宇宙版”です。地上では交通ルールや交通状況を監視する情報センター、燃料を補給するガソリンスタンドがあり、トラブルが起きればメンテナンスを受けたり、故障車をレッカー移動したりしてもらえます。
このようなロードサービスを宇宙でも作るために、寿命を迎えた衛星がデブリにならないように速やかに軌道から離脱・回収する「End-of-Life」、役目を終えたロケットの上段や大型衛星を回収しすでにあるデブリを削減する「Active Debris Removal」、デブリや物体の状態を観測する「In-Situ Space Situational Awareness」、軌道維持や姿勢制御などを行って衛星の寿命を延長させる「Life Extension」、これら4つのサービスを展開しています。
2021年にはデブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」を打ち上げました。
デブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」©︎アストロスケール
デブリ除去にかかる一連の主要技術を実証する衛星の打ち上げは世界で初めてのことでした。実証は順調に進み、End-of-Life Servicesにおいては、次はいよいよ実際のデブリを除去対象とする衛星の打ち上げというフェイズまで来ています。さらに、宇宙航空研究開発機構(JAXA)からは、宇宙空間にある日本のロケットの上段の回収を見据えて、衛星で近距離まで接近しその状態を観測するプロジェクトを受託しています。
せりか:宇宙環境を守るために、様々なサービスを展開されているんですね!
伊藤さん:はい。せりかさんもおっしゃっていた通り、宇宙技術は幅広く利用されていて、宇宙が持続可能でないと、SDGsの取り組みも成り立ちません。軌道という資源を守ることは、地上の私たちの生活を持続可能にすることにも繋がります。
©︎アストロスケール