デブリ回収ビジネスの広がりは無限大
せりか:ところで、デブリの回収をはじめとする宇宙環境を守る取り組みをビジネスとしてやろうとしているプレイヤーは、世界的にも珍しいのではないかと思います。アストロスケール社はどういう経緯で設立されたのでしょうか。
伊藤さん:アストロスケールは、CEOの岡田光信が2013年に創業しました。岡田はアジアでIT企業を立ち上げて、グローバルの起業家として活躍していましたが、自分が本当にしたいことは何なんだろうと悩んでいたそうです。そんなときに、15歳の時に宇宙飛行士の毛利衛さんにお会いして「宇宙は君達の活躍するところ」という手書きのメッセージをもらったことを思い出して「宇宙をやりたかったんだ!」と思ったことが、宇宙を目指すきっかけになったと聞いています。
©︎小山宙哉/講談社
宇宙で起業するといっても、ロケットや衛星データなど、様々な分野があります。そこでまず、学会に参加すると、業界のホットトピックの1つとしてスペースデブリ問題があるが、デブリの研究はされているものの、具体的な対策はなされていないことがわかりました。「課題がわかっているなら、ビジネスチャンスはここにある」と岡田が考えたところからアストロスケールが始まりました。
せりか:アストロスケールの創業のきっかけが毛利衛さんとの出会いにあったなんて、私も嬉しくなります!伊藤さんも宇宙に関心があったんですか?
伊藤さん:そうですね。子どもの頃から美術や図工が好きで、映画で宇宙船の映像を見たときに美しい造詣に惹かれたんです。宇宙には地上にはないビジュアルが存在しているんだなと。それで宇宙エンジニアが就職の選択肢に加わりました。
前職は衛星の開発プロジェクトに研究員として参加していました。期限付きのプロジェクトだったので、次の仕事を探していた頃、ちょうどアストロスケールも日本に製造拠点の工場を作るタイミングで、岡田もエンジニアを探していたようです。お世話になっていた教授の紹介でアストロスケールに出会いました。
せりか:デブリを回収するという壮大な計画を聞いて、どのような印象を受けましたか?
伊藤さん:本当にワクワクしましたし、面白いと思いましたね!今でこそ民間企業の宇宙開発は浸透してきていますが、当時はまだ官需の仕事だという側面が強かった……つまり、国家予算を使って宇宙開発を進めていくのが主流だったんですよ。ところが、岡田は民間で、ビジネスとしてやっていきたいと言ったんです。デブリ回収の事業もさることながら、今後の宇宙利用の無限の広がりや可能性を感じましたね。
デブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」の試験を行う伊藤さん ©︎アストロスケール
宇宙版ロードサービスが支える、未来の宇宙利用
せりか:デブリ回収を実現させるために、今後さらに必要になっていく技術はありますか。
伊藤さん:宇宙空間の状況把握はその一つです。アストロスケールの衛星は、デブリに近づいて状態を把握することができますが、どんなデブリがあるのかを地上からより正確に把握することも重要です。今はまだ10cm以下の小さなデブリは地上からは観測できていないんですよ。
せりか:宇宙機やデブリの実際の動きをリアルタイムで把握するには、通信技術も必要になっていきそうですね。デブリ問題をはじめとする事業に取り組まれているなかで、何か変化を感じていらっしゃることはありますか。
伊藤さん:デブリについて、色々なところでお話させていただく機会があるのですが、最近はデブリを知っていると手を挙げてくださる方が増えていますね。