「荷物量は増加、ドライバー数は減少」という課題に、物流業界はどのように対応するのか。そして消費者への影響は──。
物流の専門家として、アカデミアから井村直人氏(東京大学先端科学技術研究センター 先端物流科学寄付研究部門 特任研究員)、産業界から野田和伸氏(NDX代表取締役)に聞いた。
前編>>なぜ物流の2024年問題は、いまだに解決されないのか
物量を平準化するために
——今後、配送方法や配送日などの選択肢は広がるのでしょうか。井村:例えば「LOHACO」では、実証実験を経て今年4月から「おトク指定便」というサービスを始めました。配送日を遅らせると最大30ポイント(1ポイント1円換算)が貯まるというルールで、配達日によってポイントが変わります。曜日によって配送量が異なるので、それを平準化するための取り組みです。
30ポイントで人が動くのか?と思われるかもしれませんが、私たちが以前行った配送の時間価値に関する研究では、宅配便の利用者にとっての1日の配送価値を金額換算したときの中央値が約26円、平均値が約44円でしたので、それくらいの対価で配達日を遅らせる人はいるでしょう。
同時に、運送業者は「消費者はすぐに配達したほうがうれしいに違いない」という思い込みがあるので、それも変えていくべきです。これまでは、欠品なく翌日配達できることを価値としてきましたが、これからは優先事項が変わってくると思います。
——サステナビリティの観点では、在庫の有無や配送日時だけでなく、カーボンフットプリント、物流の負荷などが消費者の判断材料になりますね。
井村:トラックか、鉄道か、空輸かによってCO2排出量が変わるので、それを見せることで、消費者のマインドセットがどう変わるか、でしょうね。
政府が2022年9月から行っている「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の中間報告では、「特定の発荷主、着荷主、物流業者に物流の中長期改善計画を作成して提出してもらう」という施策案が示されました。これがきっかけで、改善が進むかもしれません。
野田:問題は、消費者だけでなく、小売や卸、メーカー側にもあります。繁忙期、閑散期で配送量の差があるのです。季節、曜日など様々な要因があるのでその波を事前に予測するのが難しく、多めに在庫を用意する傾向があります。消費者が納期や価格を選べるようになれば、波を平準化しやすくなるでしょう。
また、製造も物流もキャパシティを一定にできたほうが効率化できます。小売、卸、メーカーの在庫情報を可視化・共有できるようになれば、予測の精度が変わると思います。
物量を平準化するためには、AIを活用して日によって値段が変動するダイナミックプライシングの可能性もあります。早く頼んだほうが割引になるということであれば、早めに発注して結果的に平準化できるということもあるでしょう。