これは、2024年4月から働き方改革関連法の一環として、自動車運転に従事する労働者の年間時間外労働時間の上限が1176時間から960時間に短縮されることにより、物流業界・運送業界に生じる諸問題のことを指す。
しかし、2024年まであと1年と迫る中、運送業界の運用や仕組みが変わっているようには見えない。日本の物流業界および荷主企業の受け止め方、取り組みの現状、今後も物流を機能させていくために取り組むべきことについて、物流の専門家として、アカデミアから井村直人氏(東京大学先端科学技術研究センター 先端物流科学寄付研究部門 特任研究員)、産業界から野田和伸氏(NDX代表取締役)に聞いた。
荷物量が増加しているのに、ドライバー数は減少
──2024年問題によって、どのような課題が浮き彫りになっていますか?井村:働き方改革による時間外労働時間の制限です。他業界の大手企業では、すでに2019年からこの制限が始まっています。運送業界に5年間の猶予期間があったことは、政府もハードルが高いことがわかっていたからだと思います。
運送業界にとって残業時間の規制が難しい理由は様々あります。その一つが、荷降ろしなど本来ドライバーの仕事ではないものの、荷主からの要望でやらざるを得ない付帯業務です。労働時間の問題を解決するためには、こうした付帯業務に加え非効率な仕組みや、商習慣など様々な要因を考える必要があります。
野田:もうひとつの視点は、荷物量が増加しているのに、ドライバー数が減少していることです。野村総合研究所は、2025年には28%の荷物が運べなくなると試算しています。
人材が増えない理由は、運送業の労働時間は他の業界に比べて2割長く、賃金は1割低いという労働環境の問題があります。人を増やすには、労働時間短縮、賃上げの両方が必要です。
──5年の猶予があったにもかかわらず、まだ対策が取られていないようにもみえますが、理由があるのでしょうか。
井村:1990年代に物流事業者の規制緩和が進み、車両台数が5台以上あれば運送業者として参入できるようになったことで、事業者数が急増しました。たくさん働いて運送業で稼ごうとしていた人たちは、急に労働時間を制限しろと言われてもなかなかできないでしょう。
対策としては、賃金を上げて人を増やすこと、業務を効率化することのどちらかしかありません。前者は様々な状況から難しいので、ドライバーが増えなくても業務がまわるような効率的なシステムを考えないといけないと思います。