運送業界の賃金があがらない理由は
──2023年からは月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%以上に引き上げられました。賃金が上がることになりましたが、ドライバーには魅力的ではないのでしょうか?野田:最近では、以前に比べて物流コストインフレになってきたものの、燃料費の高騰もあって中小の運送業者は赤字のケースがほとんど。人件費まで上げられない場合が多いです。
井村:経産省が2022年9月から10回開催している「持続可能な物流の実現に向けた検討会」でも議論になったのは、運送業者の多重構造です。孫請の中には対価が安くても受注するところもあるでしょうし、荷主が多く支払っても、末端のドライバーの賃金までは影響しないという構造的な問題があります。
実は、物流のアクチュアルコストがどう決まっているのか、誰もわかっていないという根本的な問題があるのです。たとえ効率化できたとしても、どれだけ安くなったのかがステークホルダーには見えないので、やらないという判断になってしまいます。
過去に私が発荷主として物流の仕事をしていたときも、配送料は地方運輸局が決める運賃率表(タリフ)を元に決めていて、アクチュアルコストとは別の条件で交渉されていました。走行距離、燃料費、ドライバーの拘束時間、トラックの維持管理費、適切なマージンなどを算出した上で、運賃計算や交渉をするというようなことは難しい業界だと思います。
野田:中小の運送業者では、コストと利益を考えて請求金額を決めていないこともあります。トラックを寝かせて売上ゼロでいるよりは、赤字になる破格の値段でも仕事を受注したほうがいいという感覚の経営者が多く、それが業界全体の価格下落にもつながっています。
井村直人氏
運送業界は一枚岩にはなれない
──そうした生き残り戦略は、業界全体の課題なのでしょうか。井村:物流業界は、大手/中小、系列企業/独立系企業、幹線道路/ラストワンマイル(最終拠点からエンドユーザーまで)、B2B/B2Cなどによって、状況がまったく異なります。なので、一緒に動くことができません。そのため、2024年まであと1年となっても手を打ってないように見えています。