ビジネス

2023.06.02 08:15

即日配達、全国送料無料の功罪 物流業界は変われるか

アメリカとの違いは

——アメリカと比べたときに日本の課題はありますか。

井村:日本の場合は、小売に届くまでの配送料が商品価格に含まれる店着価格制度となっているので、工場の場所に関わらず、どの地域でも同じ価格です。一方でアメリカは、卸が荷物を取りに行くので、運賃は別になっています。この店着価格制度は、見直されるべきという議論があります。

野田:日本では「日本全国どこでも送料無料」が当たり前になっています。本来であれば、物流コストが産地との距離によって変わるし、決して無料ではないということを消費者が理解することが重要だと思います。地元産であれば輸送距離が少ない分環境負荷が小さいから、地元のものを買おうという動きにもつながります。

野田和伸氏

——価格設定や対応方法も含めて、ダイナミックになっていくのでしょうか。

井村:価格や運用をダイナミックに変えていくためには、ひとつ一つの荷物の所在や、アクチュアルコストを把握する必要があります。価格転嫁するにしても、配送のアクチュアルコストがわからないと難しいでしょう。

荷物ひとつ一つが情報を持つということが必要で、RFIDのような技術がイネイブラーになるのだと思います。スタートアップ企業には、データをとってアクチュアルコストを算出して、価格転嫁するといった取り組みを進めてほしいです。

将来的には自動運転やAI、ロボットの活用も?

——お二方が今後やっていきたいこと、サポートしていきたいことはありますか?

井村:物流サービスは、頼まれたものを届けるという一義的なサービスだけでは、立ち行かなくなります。明日届くという付加価値ではなく、一義的なサービスを越えた付加価値を提供できるようになれば、物流がバリュークリエイターとして変身できると思います。

マーケティング・ミックスの基本に4P(Product(商品), Price(値段), Place(チャネル), Promotion(販促))というものがありますが、私はこれに物流でしかできない2つのR(Right Place, RIght Time)を加え、4P+2Rを新しいマーケティング・ミックスと考えていくと良いと思っています。

適切な場所(Right Place)に適切な時間(Right Time)に届けることは物流にしかできません。ここに物流の価値があります。誕生日プレゼントを1週間後にもらってもうれしくないですが、当日にもらうとうれしいように、時間の価値が生まれています。

これをさらに進めて、2人の思い出の場所にいるときにプレゼントが特別な方法で届くといったような、運ぶというサービスを越えた価値を提供できる可能性があります。モノを運ぶときにつけられる付加価値を突き詰めて考えていきたいです。これは結局サプライチェーンの全体最適につながると考えています。

野田:インターネット通信の仕組みをフィジカルな物流に適用して、モノの輸送、保管を変革するフィジカルインターネットが提唱されています。コンセプトはすばらしいのですが、実現するには30年はかかるような壮大なテーマです。

今は、人海戦術でモノを運んでいますが、自動運転やAI、ロボットなどが活用されていけば、人手が介在せずに、在庫や輸送・保管のデジタルデータ化が実現できる可能性もあります。

しかし、現状は伝達方法にFAXや紙の伝票が使われていて、在庫や商流が見えないという状況なので、まずはデジタル化してデータで見える化していくことが第一歩です。

アメリカの物流企業UPSは、RFIDを活用して荷物のデータを取得し、得られたデータをGoogle Cloud上で分析しているそうです。国ごとの問題はあれど、ことデータ活用に関しては見習うところが多いと考えています。そういった先進的な取り組みを日本の物流業者さんと考え、トライし、実践していきたいです。

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井村直人◎東京大学先端科学技術研究センター先端物流科学寄付研究部門 特任研究員。東京大学農学部を卒業後、味の素ゼネラルフーヅ(現味の素AGF)入社。味の素ゼネラルフーヅ物流部長、同社生産技術統轄部長、開発研究所長、生産開発本部副本部長常務執行役員などを歴任し、飲料製品を中心とした研究開発やSCMに従事。2019年に東京大学で初めて物流の教育・研究を行う講座となる先端科学技術研究センター先端物流科学寄付研究部門の特任教授に就任。2022年より現職。

野田和伸◎NDX 代表取締役。東京工業大学大学院 理工学研究科修了後、アクセンチュアに入社、24年以上のコンサルティング経験を有する。うち7年間は運輸・物流・旅行業界統括マネージング・ディレクターとして物流業界のクライアントに対する数々のプロジェクトを経験。2021年1月にNDXを設立、物流系スタートアップ企業を中心に10社程度のアドバイザーを兼任。

三井朱音(聞き手)◎Avery Dennison マーケットディベロップメントディレクター。大学卒業後、デロイトトーマツコンサルティングにて航空、宇宙防衛、自動車、重工業等への顧客へのコンサルティングに従事し、2014年にAvery Dennisonに入社。アパレル顧客へのRFID導入やバングラデシュをはじめとする各生産拠点におけるカイゼンプロジェクトなどをリードし、現在は物流/サプライチェーンの観点から物流・小売企業へのデジタル技術導入の戦略立案や実装支援を行う。

聞き手=三井朱音 文=深谷 歩 撮影=Kosumo Hashimoto

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