「金継ぎ」がテクノロジーで進化。温度や振動で食体験を変える

「金継ぎ」にテクノロジーをかけあわせた、飲み口の温度が変化する器

いま、世界で注目を集める「金継ぎ」。この日本の伝統技法をアップデートする試みが、Dentsu Lab Tokyoによって行われた。

金継ぎとテクノロジーとかけ合わせ、飲み口の温度が変化する“茶碗”や、飲み口が振動する“ティーカップ”などを開発。6月3日まで、横浜の「S/PARK Museum」で開催中の「アップサイクルの可能性展UP-CYCLING POSSIBILITY」で展示している。

“食体験”が変化する仕組みは?

これらの金継ぎ作品は、甘味の感じ方やのどごしなどの“食体験”が変化するユニークな器だ。一体、どのような仕組みなのだろうか。

作品のなかのひとつ、飲み口の温度が変化する茶碗「TSU→GI CUP “TEMP"」は、割れた茶器を金継ぎする際に、飲み口部分に熱電デバイスを継いだもの。器の中には独自開発のデザインヒートシンク(放熱器)が入っている。飲み口部分の温度を調整できるようになっており、同じドリンクで様々な食体験が楽しめる。


「TSU→GI CUP “TEMP"」

飲み口の温度が変わる器を使用した場合の食体験の変化は、今回共同開発した青山学院大学 理工学部情報テクノロジー学科の伊藤雄一教授(大阪ヒートクール取締役)の研究「食器の温度による味覚や食体験への影響」でも証明されている。

「常温の飲料が23.5度くらいだとして、それを入れた器の飲み口を冷やしてやると、下唇や口腔内が冷えるので食感や喉越しが変わるんです。さらに味覚も拡張されて、強調されることがわかっています」(伊藤)

 例えばオレンジジュースとリンゴジュースとお茶であれば、飲み口を冷やすことでそれぞれ「酸味」「甘み」「渋み」が強調される。反対に飲み口を温めても味覚は拡張するという。

「ビールのジョッキを冷やして飲むとおいしい、と言われますが、それを認知科学的に証明したわけです。ただ、あまり冷やしすぎても意味がないこともわかっています。ビールの場合は、0度よりも14度ぐらいが最適です」

なぜ金継ぎにテクノロジーをかけ合わせたのか

こうした伊藤研究室のテクノロジーを活用して金継ぎ作品を生み出したのは、Dentsu Lab Tokyoのクリエーティブ・テクノロジスト、なかのかな。廃棄物の向き合い方を変えるためのプロジェクト「UP-CYCLING POSSIBILITY」の第一弾として企画した。
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文=田中友梨 写真=小田光二

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