ローソンとファミリーマートのデジタル戦略を担った「コンビニの改革者」の植野大輔が、注目の人物にインタビューするシリーズ(最終回)。
植野大輔(以下、植野):武地さんは会計士の一家に育ったそうですね。
武地健太(以下、武地):正確に言うと税理士の家系です。父は現在も大阪で税理士事務所を営み、母方の祖父も税理士でした。母自身も税理士試験(※1)に通っているし、弟はいま税理士事務所で働いています。
植野:まさに税務一族。
武地:僕も会計士ですから、一応はそうですね。
植野:家業を継ぐため「税理士や会計士になれ」と言われて育ったんですか。
武地:いや、その逆です。僕が2000年に18歳で京都大学に入るとき、父から「跡は継がせない」と。「税理士は基本的に法律に書いてあることをやる仕事だから、機械のほうが得意な領域。跡を継いだら大変だぞ」と。
植野:20年以上も前から、従来の仕事がAIに置き換わることに気づいていた。
武地:父は理系なんです。激変する産業にわが子を就かせるのはしのびないと。
当時、総合人間学部の教授から「京大は会計学が弱いから会計の勉強をやるとエッジが立つ」と言われ、なるほどと思って。卒論のテーマは「会計手法を駆使して企業のサステナビリティをどう開示するか」。実際、来年からその制度が始まるので、20年近くも先取りしていたんです!
植野:それはすごい。卒業後は会計士として監査法人へ。
武地:就職氷河期のまっただなかです。父は反対しましたが、母が「このご時世に内定をいただけて、いいじゃない。あの子も自分でこの先を考えるわよ」と説得してくれました。すぐ辞めるつもりでしたが4年ほど勤めました。
植野:そこからコンサルに。入ってどうでしたか?
武地:これは大変だぞ、と。発言することが価値と聞いていたのに、会議で「お前はわかってないからしゃべるな」と平気で言われたときはトイレで泣きました。
植野:昔のBCGはそういう厳しさがありましたね。
武地:入ったときはみんなそんな感じでした。でも、ようやく3つ目のプロジェクトでウマが合って立ち直れました。
植野:コンサルが面白くなった。
武地:どちらかというと、ようやく「自分の人生を生きられる」という心境です。この環境で食らいついて仕事していけば、自分の力が上がって、会社に依存せず生きていけるようになる。そういう生き方に昔から憧れていました。
植野:心の奥底にプロフェッショナリズムみたいなものがあるんでしょうね、武地さんには。
武地:クライアントから「すごく真剣にやっているから、ちょっと抜けてるかもしれないけど、一緒に頑張ろうと思える」と言っていただくことが続いて。お客さんになぐさめられる時点で本当はダメですが、自分の強みがわかったし、波に乗って仕事をどんどんこなしました。
※1 税理士試験
税理士となる資格を有するかを判定する、国税審議会が行う国家試験。受験者数は2005年をピークに減少傾向だったが、近年は下げ止まった。必須科目は「簿記論」「財務諸表論」。選択必須科目は「法人税法」「所得税法」、選択科目は「相続税法」「消費税法」「酒税法」「国税徴収法」「住民税」「事業税」「固定資産税」。合格後、日本税理士会連合会に備える税理士名簿に登録することで税理士となる。