仲西:DELTAは、若いアーティストに発表の機会を提供するギャラリーであり、“アーティスト・イン・レジデンス”として、海外の作家を招聘する場所でもあります。今年はコートジボワールからジョアナ・シュマリを招き、彼女が滞在しながら、店が所在する出町桝形商店街の方々と交流し、新作を制作、展示しました。
深井:さらに今年からは、KYOTOGRAPHIEと並行して、国際音楽祭「KYOTOPHONIE」も始動されました。
仲西:11年間続けたおかげで、KYOTOGRAPHIEの方にはファンの方もかなり増えましたし、静かな波は作れたなという実感があります。その一方で、今の日本に何が必要かを考えた時、それは発散できる場所、しかもそれをみんなと共有できる場所なんじゃないかと。
とくに最近は、なんでもオンラインで見ることができますし、円安で旅行に行くのもままならない状況です。そうやって人間が持っている五感を使った体験が減っていくと、感覚が衰えていってしまうのではないかと危惧しています。
ルシールも僕も音楽が大好きなので、例えば、音楽のライブを聴いたときの鳥肌が立つような感覚をまた蘇らせたい。好きなジャンルだけでなく、知らない音楽と出会うことで、新しい価値観に触れるような体験をしてもらいたい。そうした思いから、ジャンルも国境も超えたボーダレスな音楽祭を始めることにしました。
5月23日には、金剛能楽堂で、アフリカ音楽とブラジル音楽のライブをやりました。アコースティックを爆音で。本当によくお貸しいただけたと思うのですが、会場と音楽がマッチして、音がすごくきれいで、能楽堂の方にも好評でした。
最後には観客全員が立って踊り出したんです。日本ではなかなかないことです。それを見たときに、「あ、できたな」と。目指しているものが形になったと感じました。みんなが開いた瞬間を見ることができたというか。
とはいえ音楽祭に関してもやり方もわからず、にも関わらずやはり外注はしていないので、なんとか必死でやっているという状態です(笑)。
深井:KYOTOGRAPHIEもKYOTOPHONIEも、やはりお二人が、京都の人でも業界の人でもない、ある意味「門外漢」だからこそ切り拓けたのではないかと思います。興行目的ではなく、本当にいいものを国境のへだてなく見せよう、聴いてもらおうとする。あらゆる側面で、お二人が持つ“エトランジェ”(フランス語で“外国人”)の力を感じました。
仲西:ルシールも僕も、ずっと旅をするように生きてきたので、つねに自分たちで新しいものを発見して、それらを共有しているという感覚です。京都は掘れば掘るほど面白いものが出てくる街。まだまだこれからも、知られていない京都を見せていきたいと思っています。
仲西祐介◎照明家。1968年生まれ。世界中を旅し、記憶に残されたイメージを光と影で表現している。MV、映画、舞台、ファッションショー、インテリアなど様々なフィールドで照明演出を手がける。アート作品としてライティング・オブジェやライティング・インスタレーションを発表。2013年、写真家ルシール・レイボーズと共に「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」を、2023年「Borderless Music Festival KYOTOPHONIE」を立ち上げる。
深井厚志◎編集者・コンサルタント。1985年生まれ。英国立レディング大学美術史&建築史学科卒業。美術専門誌『月刊ギャラリー』、『美術手帖』編集部、公益財団法人現代芸術振興財団を経て、現在は井上ビジネスコンサルタンツに所属し、アート関連のコンサルティングに従事。産官学×文化芸術のプラットフォーム、一般財団法人カルチャー・ヴィジョン・ジャパンでの活動ほか、アートと社会経済をつなぐ仕事を手がける。