2023年のテーマは「BORDER」。共同創設者/共同ディレクターのルシール・レイボーズと仲西祐介の2人はテーマについて下記のように述べています。
「あらゆる生命体はさまざまな《BORDER=境界線》を持ちながら生きている。境界線はその存在を形作り、その経験を規定する。そして、生命体はそれぞれの境界線を守り・壊し・広げ・狭めながら生きる」(プレスリリースより)
この記事では、京都の美術館、寺院、京町家など19の会場に点在する展示の中から、特にテーマとの深いかかわりを感じた2人の作家の展示を紹介します。
テーマとのシンクロニシティを一番に感じさせたココ・カピタン
展示を一通り観たあとに、個人的にテーマとの共鳴を一番感じたのは、ロンドンとマヨルカ島を拠点に活動するスペイン人アーティストのココ・カピタンの展示『Ookini』でした。1992年生まれで、昨年30歳を迎えたカピタンは、2017年にグッチとコラボレーションしたことで一躍話題となり、昨年には渋谷のPARCOで日本初の個展が開催されたところでした。
そのカピタンが、KYOTOGRAPHIEのレジデンスプログラムで昨年10月から12月まで京都に滞在。未来の釜師、狂言師の息子、人形師の息子、禅僧を目指す学生、舞妓、そして学校の制服を着たスケーターなど、まだティーンエイジャーの若者たちをフィルムカメラで切り取った情景が、ASPHODELを中心に合計3つの会場で展示されています。
まだ10代の若者たちが、ユニフォームを纏うことや歴史あるフォーマットにはめられることで、大なり小なりの「制限」が与えられている様子にはいろいろなものが宿ります。
外国人の目を通すと異質にも映るそういった光景を彼女はカメラに収めていますが、その写真で中心に据えられているのは窮屈さではなく、むしろすでに彼らの中に芽生えている美学であったり、枠からはみ出て新しいことに挑戦する若さに満ちた精神性であったり。枠があるからこそより際立つ感覚が、ファインダーを通じて軽快にあぶり出されていました。
額装もありきたりではなく、フレームの形に象られた木製の「板」にプリントがマグネットで留められているだけというスタイルには、彼らを額の中に閉じ込めるのではなく、外の空気に触れさせておきたいという彼女の想いが込められていたようにも感じました。