アート

2023.07.04

美術館の新時代へ。国立アートリサーチセンター片岡真実の構想

「国立アートリサーチセンター」のセンター長を務める片岡真実

今年3月28日、「国立アートリサーチセンター」が独立行政法人国立美術館内に設置された。全国の国立美術館をつなぐネットワークを構築し、収蔵品の見える化や活用促進、国際的なアプローチを視野に入れた日本のアート振興を目的としたプラットフォームである。

そのセンター長を務めるのが、国内外でキュレーターとして活躍し、現在は森美術館の館長を務める片岡真実だ。

「10年前から構想が練られていた」という同センターが担う役割、そこで片岡はどのような取り組みを進めるのか。さらには、日本のアート界が今後描くべきビジョンについて、アート領域を専門とする編集者・コンサルタントである深井厚志が、話を聞いた。

過渡期にある日本の近現代美術館

深井:国立アートリサーチセンター(以下、NCAR)が本格的に始動しましたが、同センターは、そもそもどういった問題意識や課題をもとに設立されたのでしょうか?

片岡:NCARの設立は、複数の方向から求められていました。1990年代以降、世界が多文化化し、世界各地からグローバルにアートが発信されるようになり、同時にアジア経済も発展しました。

そのなかで他のアジア諸国に先じて1950年代から近代美術館を作ってきた日本の美術館施策は、むしろ歴史があるゆえに、変わることが難しいということもあるかもしれません。特に近年、アジア諸国が著しく成長するなか、「失われた30年」を過ごしてきた日本は相対的に存在感を失いつつあります。そこで、国際的なアプローチを含めた、日本のアート振興事業の必要性が高まってきたのです。

それからもうひとつ大きな課題として、「独立行政法人国立美術館」が統括する7施設の機能強化や横連携があります。日本で最初の国立美術館である東京国立近代美術館は1952年に開館。その長い歴史に対し、独法の設立は2001年。それ以降に3館が開館していますが、各館個別の活動と独法全体としての活動の関係性はまだ発展途上といえます。今後、より連携を深めていく必要があるでしょう。

じつはNCARのような構想自体は約10年前にすでに指摘されていました。2014年、「現代美術の海外発信」に関する専門家による議論を経て、そのための短期・中期・長期の目標がまとめられました。そのうち、長期的な視点では、「現代美術振興支援機構のような組織の創設」が必要であると書かれています。

その取り組みの一端として、18年には「文化庁アートプラットフォーム事業・日本現代アート委員会」(以下、プラットフォーム事業)が立ち上がり、5カ年の事業として全国美術館収蔵品サーチ「SHŪZŌ(シュウゾー)」や国内の現代美術に関する資料のデジタル化、重要文献の英訳、顔の見える専門家人的ネットワークの構築などを進めてきました。その活動は概ね、NCARが引き継いでいます。

深井:これまで美術館のコレクションは各館がそれぞれ独自に管理していて、統一フォーマットもなく、管轄自治体を超えた横断サーチもできませんでした。それを可能しつつあるのが「SHŪZŌ」ですが、アートプラットフォーム事業の立ち上げからわずか5年でローンチというのは、何事にも慎重過ぎるこの国の性格を考えると異例の早さです。
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インタビュー=深井厚志 文=菊地七海 写真=山田大輔 編集=鈴木奈央

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