サイエンス

2023.05.06 13:00

まるで空飛ぶスポンジ、羽毛に水を蓄えて運ぶ鳥の能力を科学者が解明

池田美樹
ヒナたちの喉を潤すために、オスのサケイは水飲み場を求めて最大32kmも飛び、体を水に浸し、腹部の羽毛に含ませて巣へと水を持ち帰る。集めた水は、オスのサケイの全体重の15%にも及ぶ。それでも親鳥は、これだけの水を持ったまま時速65kmで飛ぶことができる。水の半分近くは、30分間におよぶ飛行の間に蒸発してしまうこともあるが、喉を乾かしたヒナたちはくちばしを使って親鳥の羽毛から水を搾り取る。

サケイには16の種があり、オスだけが水を持ち運ぶことに特別に適応した羽毛を持っている。サケイの持つこの水を運ぶ「スーパーパワー」は、1896年、捕虜になりながら鳥を繁殖させていた英国の鳥類学者、エドモンド・ミード・ウェルドによって最初に報告された。彼の忍耐強い観察は当時「空想」と片付けられたが、60年後に正しかったことが証明された。

「彼はサケイがこのように行動するところを見たのに、誰も信じなかったのです!」とギブソン教授は述べている。

ミード・ウェルドによる最初の報告書は1967年、2人の鳥類学者によって検証され、アフリカの水飲み場を訪れる野生のサケイの詳しい観察結果を発表した。彼らの報告によると、オスのサケイの羽毛は25ml(小さじ5杯分)の水を保持し、鳥たちは、腹の羽毛を5分間ほど水に浸して膨らませながら水を集めた。残念ながら1967年当時、研究チームにはこの特殊な羽毛の構造をそれ以上詳しく調査する技術がなかった。

ミュラーは、共同研究者で共著者であるマサチューセッツ工科大学材料工学のマトゥーラ・S・サラパタス教授、機械工学教授の材料工学者、ローナ・ギブソンと共に、この特殊な羽毛の働きについて理解を深めようと考えた。ギブソンは、羽毛の微細構造を長年研究していたため、サケイの羽毛に関してもっと知りたいと思っていたのだ。

「どんな仕組みかを知りたかっただけです」とギブソンは率直に話した。「何もかもがあまりにも興味深く感じました」

この調査を進めるために、ミュラーとギブソンはクリムネサケイ(Pterocles namaqua)の成鳥オスの標本から腹毛を数本入手した。標本はハーバード大学比較動物学博物館に所蔵されていたもので、同館は世界の鳥類の約80%の標本を所蔵している。彼らは次に、走査電子顕微鏡、マイクロコンピュータ断層撮影、光学顕微鏡、3D映像などのあらゆる最新技術を駆使して、乾燥した、また濡れた羽毛を大きく拡大して調べた。ミュラー教授とギブソン教授は羽毛の軸(ヒトの毛髪の何分の一かの太さ)やさらに小さい羽枝や小羽枝も観察した。
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翻訳=高橋信夫

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