たとえば、介助士との人間関係。
障害のある子の学校生活を支えるために介助士が付くが、佐野さんの希望通りに動いてくれず、困ったこともあった。「相談したら、トシちゃん自身もヘルパーさんとの関係で悩んでいたと教えてくれたんです。尊敬するトシちゃんでもそうなんだ、って思ったら気持ちが楽になりました」
今年度は介助士のメンバーが一新したので、佐野さんが学校に提案してミーティングを開いてもらい「介助が必要な時以外は、離れて見守ってほしい。何でもお互いに相談して決めていけたらうれしい」と思いを伝えた。
「あくまで入れ物は私で、車いすは要素の一つ」
この夏には、チーム対抗でごみ拾いを競う「スポGOMI」を車いすで行うイベントを掛川市に提案し、実行委員長を務める。教科書に載っているような福祉の勉強よりも、一緒に何かをやる中での気づきを大切にしたいと思っている。これも押富さんから学んだことだ。マスメディアに取り上げられる機会も増え、街中で握手を求められたことも。
でも、車いすの女子高生として注目されることに納得してはいない。
「あくまで入れ物は私で、車いすは要素の一つ。本質的に伝えたいのはそこじゃない。車いすなのに偉いね、頑張っているねと言われて違和感を覚えていた幼少期の私が、今の自分を見たらどう思うのかな」
答えは出ないけれど、いつも頭の中でトシちゃんと会話して、方向性を決めている。
「自分の中でうまくバランスを取りつつ、活用できるものは活用する強さも大事なんだって思うようになりました。きっとトシちゃんもそうだったはず」
「太陽のような存在」だった押富さんが亡くなった衝撃は大きすぎて、一時は「時間が止まってしまった感覚」に陥った。時計の針が再び動き出したのは、吉本ばななの小説「キッチン」を読んで、大切な人を亡くした主人公みかげの心情を自分に重ねたことから。その読書感想文「前に進むために」は、全国高校生読書体験記コンクールの県内最優秀に選ばれた。
将来やりたいことはたくさんありすぎて固まっていないけれど「当事者として伝えなくちゃいけない立場」であることを土台に置きつつ「いろんな人に会って、人から吸収したい」と言う。空の上から見守る押富さんに「ちゃんとやってます」と言えるように。