健康

2023.04.15

花粉シーズンが世界的に長期化する原因

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世界的に花粉の飛散量が増加し、花粉症による健康被害が年々深刻化しています。

花粉の飛散は、気温や雨量の変化と密接に関係しており、気候変動で春の気温が上昇することで、植物が花粉を飛ばす時期が大幅に早まり、その期間も長期化します。

日本の花粉症のほとんどがスギ花粉によるものであることから、林野庁は、無花粉スギや花粉をほとんど出さない少花粉スギの苗木の生産拡大に取り組んでいます。本題について世界経済フォーラム(WEF)のアジェンダからご紹介します。


花粉症の約70%がスギ花粉によるものと推察され、日本人の3人に1人が花粉症と言われています。その理由は、日本の国土に占めるスギ林の面積が大きく、全国の森林の18%、国土の12%をスギ林が占めているためです。

例年、2月上旬に九州からスギ花粉の飛散が始まり、3月にピークを迎えます。その後、4月にはヒノキ花粉の飛散がピークを迎え、どちらの花粉にもアレルギー症状がある人は、5月頃まで強い症状に悩まされることになります。環境省の調査によると、今年のスギ花粉の飛散量は過去10年で最も多くなると見込まれています。

花粉症の健康被害は幅広く、くしゃみ、鼻水、鼻詰まり、目や全身のかゆみまでに至ります。こうした症状は、睡眠の質の悪化や、仕事のパフォーマンスの低下につながり、人々の日々の生活や仕事への影響は軽視できるものではありません。林野庁の推計によると、花粉症によるこうした影響が及ぼす経済損失は、医療費と労働損失を合わせて年間2860億円にものぼります。

花粉の影響、米国とカナダでも深刻化

花粉症に苦しんでいるのは、日本人に限ったことではありません。米国とカナダにおいても、花粉症シーズンの影響が深刻化しています。1990年から2018年にかけて、北米60カ所の観測拠点で得られた花粉関連の指標を調査したある研究結果によると、北米の住民が花粉にさらされる時期は20日早くなり、飛散日数も8日長くなったことが明らかになりました。また、空気中に放出される花粉の個数や濃度についても、20.9%の増加が見られ、春の花粉シーズンに限ると、増加率は21.5%に上りました。

根本の原因は、気候変動

世界的な問題となっている花粉によるアレルギー症。年々悪化の一途をたどっているのには、気候変動が関係しています。風に乗って運ばれる花粉の飛散は、気温や雨量の変化と密接に関係しており、気候変動で春の気温が上昇すれば、植物が花粉を飛ばす時期も大幅に早まり、現在よりも長期化するのです。

学術雑誌ネイチャーコミュニケーションズに先月掲載された最新の研究によれば、米国で飛散する花粉の量は、気候変動により2100年には40%まで増加する恐れがあるという結果が出されました。それに伴い、花粉シーズンは最大で40日間早く始まり、最大で15日長く続く可能性があると予測しています。

地球温暖化により生物の生育期が長くなり、その結果、アレルギーによる人間の健康リスクが高まろうとしています。干ばつや暑さにより、森林や草原が減ったとしても、アレルギーの原因となる花粉を生成する草木の中には、気温や二酸化炭素濃度の上昇によって大きく成長し、より多くの葉をつけるものもあり、まずは、こうした要因を解明し深く理解することが急務となるでしょう。
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文=Naoko Tochibayashi, Public Engagement Lead, World Economic Forum, Japan; Naoko Kutty, Writer, Forum Agenda

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