健康

2023.04.22

夭折の障害者リーダーが紡ぐ「未来への物語」#人工呼吸のセラピスト

高校入学を押富さんの仏前に報告した佐野夢果さん 左は押富さんの「相方」山田隆司さん(2022年4月)

人工呼吸のセラピスト・押富俊恵さんの39年の生涯をたどった連載は、今回で最終回を迎える。過酷な闘病体験を経て、自分が楽しむこと、自分を通じて地域社会の理解が広がることを目指した押富さんは、今まで見たことのないタイプの障害者リーダーだった。

だれもが自分らしく生きられる「共生社会」への道のりはまだまだ遠いが、思いをしっかりと受け継ぐ次世代も登場している。
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39歳、突然の別れ 地域に引き継がれた遺志 #人工呼吸のセラピスト

16歳少女の胸の内に息づく「トシちゃん」

電動車いすで通学する静岡県掛川市の掛川東高校2年、佐野夢果さんは、地元ではかなりの有名人だ。

同市内には、車いすで生活する横山博則さんが経営する駄菓子屋「横さんち」があり、子どもたちと障害のある人の交流の場として知られているが、その公式グッズが佐野さんのデザインを基にした「カラフルスライムズ」の12種類の妖怪たち。
静岡県のSDGsスクールアワード2022のステッカーに採用された佐野さんデザインのカラフルスライムズ

静岡県のSDGsスクールアワード2022のステッカーに採用された佐野さんデザインのカラフルスライムズ


情報通の「ピピ」、嫌味が大好物の「ウイン」、ダンスが大好な「ドドン」など12種類の妖怪たちが描かれたTシャツや靴下、帽子などの商品が販売されている。話題を呼び「静岡県SDGsスクールアワード2022」のステッカーにも採用された。さまざまな色、形の妖怪たちの多様性が、持続可能な社会の創り手の育成を目指すアワードにぴったりだった。

もともと絵が好きで「高校受験の息抜きにスマホのアプリで描き貯めました。多様性のイメージは、ごちゃまぜ運動会に影響されていますね」と佐野さん。

小学校5年のときに、押富さんが代表理事を務めるNPO法人ピース・トレランスの第1回ごちゃまぜ運動会(初回の記事で紹介)に参加した。車いすを連結させて競走したり、20台で綱引きをしたりと「みんなが一緒に盛り上がれて、すごく素敵だった」。

(初回:ある日、呼吸を奪われた。それでも私は楽しむ

その1カ月前には、校長先生に談判して、小学校の福祉教育の授業で押富さんを講師に招いている。

「車いすの体験とかの授業よりも、トシちゃんの話をみんなに聞いてほしかったんです」

佐野さんは、幼少期からの難病で歩くことができない。小学校にエレベーターがないことを理由に、特別支援学校を勧められたが、両親や主治医が教育委員会と交渉を重ね、地域の小学校に進むことができた。やがてエレベーターも設置された。
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文=安藤明夫

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