テクノロジー

2023.03.05 13:00

衛星の廃棄をなくす、宇宙ガソリンスタンドの壮大な使命【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#16】

軌道上での燃料補給で、リスク低減

せりか:衛星への燃料補給ビジネスの市場規模は、どのくらいなのでしょうか。

ダニエルさん:現在は、世界で120以上の企業と団体が衛星を運用しています。それらが衛星を打ち上げる輸送費用は、年間約50億ドル。打ち上げ輸送費用は機体の重量で決まるのですが、一般的に衛星の機体と燃料の重量は半々だと言われています。つまり世界の衛星企業は年間約25億ドルを、燃料を軌道上に打ち上げるためのコストとして支払っているわけです。
 燃料補給衛星のイメージ (C)Orbit Fab

燃料補給衛星のイメージ (C)Orbit Fab


ダニエルさん:
軌道上で燃料を入手できるようになれば、誰もが使うようになるでしょう。従来の衛星の寿命……つまり燃料の残量に縛られずに、衛星を運用できるようになるわけですから。市場規模は今後10年で、100億ドル以上に成長していくと思います。

せりか:将来的には月や小惑星で採掘した資源を利用するとのことですが、それまではサービス提供事業者であるOrbit Fabも、地上から軌道上まで燃料を運ぶ必要があります。どのようなメリットがあると考えていますか。

ダニエルさん:衛星を打ち上げるには、高額な打ち上げ輸送費用を収益が出る前に支払わなくてはなりませんよね。しかし、軌道上で燃料を補給できるようになれば、今年や来年分の燃料だけを搭載して打ち上げられます。それ以降は必要になったときに費用を支払って給油すればいいので、高額な打ち上げ輸送費用のためにローンを組んで、利子を支払わなくても良くなります。

衛星が不具合で動作しなかった場合や、市場が変化して求められる衛星の機能が変わった場合にも、軌道上で補給する前提で打ち上げ時に搭載する燃料を少なくしておけば、投資が水の泡になってしまうのを防げます。さらには、燃料タンクや制御システムを小型化して、空いたスペースに望遠鏡や観測機器を搭載できるようになるかもしれません。

せりか:なるほど。実現すれば、宇宙スタートアップの事業支援にも繋がりますね!

ダニエルさん:そうですね。Orbit Fabのビジョンは、宇宙の経済圏を広げることです。そのために軌道上の衛星に燃料を補給するほか、将来的には宇宙機がより遠くに航行するための推進剤や、宇宙空間で人々が生活するのに必要な化合物も供給していくつもりです。
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