VRで痛みを緩和、骨髄検査で効果を確認

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痛みを緩和する手段としての仮想現実(VR)の有効性について論じた画期的な研究結果が今月、医学誌『Journal of Medical Internet Research』に発表された

この研究では、痛みや不快感があることで有名な骨髄生検を受ける患者を対象に、鎮痛効果を調べた。実験の参加者は、痛みを緩和する手段として、亜酸化窒素と酸素の混合ガスを使用する従来の麻酔と、VRヘッドセットを使用する方法のいずれかを無作為に割り当てられた。VRヘッドセットを使う患者は、施術中に体験する架空の3次元VR環境を「野原(夢のような田舎の散歩)」「海底(海底探査)」「宇宙(宇宙遊泳)」「森林(夢のような森の散歩)」の4つから選択。これらのVR環境は「催眠状態を誘発することなく、受け身の状態でゆっくりと瞑想的な探検をすることで、リラックスした状態や軽い鎮静状態を誘発するよう設計されている」ことから、完全な没入感を得るため患者はヘッドホンを装着した。

結果は非常に意義深いものだった。研究チームは、従来の疼痛治療法とVR治療法で、患者が感じる痛みの強さに大きな違いはないことを発見した。さらに、不安の度合いや血圧にも、2つの患者群で有意差は認められなかった。最も重要な点として、VRを用いた疼痛緩和法は忍容性が高いだけでなく、使用した患者や医師が極めて満足していることが明らかになり、この研究は非常に有用だったと科学者らは考えている。

この技術の応用可能性には、非常に大きな影響力がある。痛みをめぐる世界的な危機は、現在の医療業界における最も重大で壊滅的な問題の1つだ。実際、ある医学研究所の推計によれば「1億人以上の米国人が慢性疼痛に苦しんでおり、治療と生産性の損失で年間6350億ドル(約86兆円)ものコストがかかっている」という。

慢性疼痛は非常に蔓延しており、痛みをコントロールする治療薬の市場規模は、米国に限定しても2021年だけで推計67億5000万ドル(9090億円)近くに上る。2028年には125億5000万ドル(1兆6900億円)まで成長する可能性が高い。

VR技術はまだ初期段階にあるが、提供できる価値に関しては大きく進歩している。多くのテクノロジー大手が潜在的な用途の広がりに着目し、ハードウエアへの投資を続けている。代表的な例の1つがMeta(メタ)のVR製品で、最新ゲームから現実そのものの没入体験、ビジネスや専門的な用途まで、さまざまなアプリケーションに対応した開発が進められている。メタのハードウエアを使用したコラボレーション、教育、完全な没入体験への参加の機会が幅広く提供されていて、将来的に実現の可能性のある痛みの緩和手段を統合する有望な媒体となっている。

同様に、Microsoft(マイクロソフト)のヘッドセット「Hololens(ホロレンズ)」の驚異的な進歩は、仮想現実と拡張現実(AR)に関するゲームチェンジャーだ。同社はすでに製造、エンジニアリング、教育の各分野にHololensを導入しており、医療についても教育や仮想通信、さらには患者に対する直接ケアの提供への応用が試験されている。ヘルスケア分野でもこれまでにすばらしい進歩を遂げていることから、Hololensも疼痛治療の新たな手段の探求に適している。

まだ多くの研究が必要で、こうした実験を重ねていかなければならないが、適切な技術と、患者の安全を優先する適切なガードレールを組み合わせることにより、VRで痛みを緩和するというアイデアは医療上の最も重大な問題の1つを解決に導く有望な取り組みとなる。

forbes.com 原文

編集=荻原藤緒

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