今回は著書『ドラえもんを本気でつくる』が話題のAI学者・大澤正彦に聞いた。
AIの技術については、擬人化すべきかすべきでないかを見極める必要があります。同じ科学技術の一種でも、「核爆弾に人間が支配される」とは言わないですよね。現在のAIはただのテクノロジーで道具にすぎないのに、擬人化してしまうことで過度に恐れてしまっている。近年進化しているディープラーニングは、擬人化すべきでないAIの技術です。
僕たち技術者や研究者がAIを擬人化しないのは、テクノロジーの中身の設計を知っているから。「こういう入力がされたらこういう出力がされるだろう」という想像ができるからこそ“AIに心がある”とは感じません。しかし、一般の方はルール・設計に基づいて解釈することが難しいため「そこには意図がある」と解釈してしまい、「AIは人間を支配するつもりだ」という“悪意”があるとさえ思ってしまう。
不適切なAIの擬人化を防ぐには、中身のルール・設計を研究者がわかりやすく発信することも重要だと思います。AIとともに発展していくには、人間こそが「自分らしさ」や「自分らしい能力」を追求し、発揮することが大事になると思います。1億人がやっている作業を代替できるサービスを科学技術で代替できたら、それをつくった人たちはもうかりますよね。
つまり、科学技術はみんなが共通してやってる作業を狙って生み出されて、世の中に広がっていく。しかし、科学技術でいつか代替できるかもしれないことでも、世界でたった1人しかやっていない仕事なら、わざわざ代替するサービスはつくらないわけです。問われるのは、自分らしさの探求です。自分が得意なことをやっている人がいま以上に重宝され、生きやすい世の中になっていくのではないでしょうか。
大澤正彦◎1993年生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了。博士(工学)。孫正義育英財団 1期生。著書に『ドラえもんを本気でつくる』(PHP新書)。