ビジネス

2023.02.24

海馬のAI解析を起点に世界から認知症をなくす

オムロンベンチャーズ 井上智子(左)、CogSmart代表取締役・最高科学責任者 瀧靖之(中央)、CogSmart代表取締役社長 樋口彰(右)

CogSmart は2019年、東北大学加齢医学研究所 瀧靖之研究室発のスタートアップとして設立。同社は「早期段階からの認知症予防」の普及を目指して、頭部のMRI画像をAIで解析するソフトウェア「BrainSuite」を提供。

記憶力を同世代と比較して脳の健康状態を評価するもので、受診者それぞれに応じた生活習慣改善のアドバイスをサポートする。21年10月には、弁護士として国内外で活躍してきた樋口彰が同社の代表取締役CEOに就任。「BrainSuite」 は22年12月時点で、首都圏の脳ドック提供病院を中心に、30件以上の導入実績をあげている。


オムロンベンチャーズの井上智子は、21年11月にCogSmartが総額3.5億円を調達したシリーズAでリード投資を行った。その理由とは。


井上:医療をテーマに投資をするなかで、世界中の認知症領域のスタートアップを見てきました。しかし、医師の診断を補助するソリューションを開発する会社はあっても、認知症そのものを根本的に治したり、予防したりする手法に挑むところはなかなかなくて。一方、CogSmartは、脳の健康状態の見える化だけでなく、その一歩先に進んだソリューションを開発しようとしています。それも、脳科学界のKOL(キーオピニオンリーダー)である瀧先生と、弁護士の樋口さんというユニークで強力なタッグによる、膨大な研究データと知見、技術を用いての取り組みということで、面白いと思いました。

瀧:私たちの研究室は2000年代初頭から世界に先駆けて脳の画像データベースをつくり、脳がどう発達し加齢していくのかを研究してきました。そこでわかってきたのは、運動や食事、趣味、コミュニケーションなどの生活習慣が脳に大きな影響を与えるということ。こうした情報を学術界だけがもっておくのではもったいない、これを社会実装したいと思い起業しました。「Brain Suite」は、AI解析で海馬の体積を量るものですが、大事なのは見える化した後に、受診者の生活習慣の改善に向けた行動変容を促すこと。そこで次の手を打っています。

樋口:一般的に人間は、40代くらいから海馬が萎縮し始めます。生活習慣がよくないと、それよりも早い段階から進行していきますが、一度萎縮したら後戻りできないわけではなく、生活習慣を改善していくと神経が生まれ変わり、海馬が大きくなることがわかっているのです。いま開発しているのは、これくらいの運動をやっていくと脳の状態はよくなるよ、など生活習慣の改善を促す認知症の予防アプリで、23年の上市に向けて準備しているところです。

井上:行動変容というのが肝ですね。家庭用血圧計のグローバルリーダーであるオムロンでも、高血圧症をなくすために長年いろんな研究や活動に取り組んできましたが、みんなに生活習慣を改善してもらうことはなかなか難しいと痛感しています。CogSmartが開発中のアプリは、直感的に行動変容を促す仕組みで、効果が期待できそうです。

瀧:人間って面白くて、ちょっとしたことから行動を起こすと、正のスパイラルに入るものなんです。例えば、腕立て伏せ1回から始めるのでもいい。そうすると、運動を始めてみたから、今度は食べるものに気を付けてみようとか、睡眠を多めにとるようにしてみようとか、好循環が生まれる。そして、それがいい結果につながると、その行動を続けることが楽しくなる。小さなきっかけをつくってあげることで、楽しく生活習慣を改善しながら認知症の予防につなげていく。これが私たちのつくりたい世界観です。
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文=眞鍋 武 写真=平岩 亨

この記事は 「Forbes JAPAN No.102 2023年2月号(2022/12/23発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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